パーフェクトブルー -甘くて眩しいきみの色-
蘭子さんが気まずそうに柳と男の人に視線を送る。
「兄貴」
その言葉に、私は思わず目を見開いた。
この人が柳のお兄さん…?
やっぱり、私が感じた違和感は間違いではなかった。
この人の顔、少しだけど柳に似ている。
中性的な柳の顔に比べて男らしさが強い顔立ちだけど、さすが柳の兄弟だ。
堂々としたその様はどこかの有名俳優のよう。
「はじめまして、佐百合の兄の柳 智巳(やなぎ さとみ)です」
私たちに向かって小さく会釈した柳のお兄さんは、ケースから一枚名刺を取り出しカウンターへ置いた。
そして、腕時計を確認すると「では」と言ってお店を出て行っていってしまった。
置き土産の名刺を手に取り、私は思わず大きな声をあげる。
「だ、代表取締役…!?」
柳のお兄さんの名前の横には、有名な建設会社の名前。
つまり、社長ってこと…?
「兄弟がいるってことは知ってたけど、まさか会えるなんてね…。全く、あんたの一家は揃いも揃って美形なのね」
蘭子さんが呆れたようにため息を漏らす。
驚いた私に由井くんがこっそりと教えてくれた。
「佐百合んちはYANAGIグループっていうすげー会社なの。ちなみに、ウチ…阿久津沢の理事長は柳のとーちゃん」
驚きすぎて声も出ず、私はあんぐり口を開けたまま柳に視線を向ける。
「柳さんは、YANAGIグループのお坊ちゃんッスよ」
「そ。とーんでもない、お金持ち」
ひそひそと、意地悪な声色で2人に言われる。
今まで彼になんとなく気品を感じていたことについて辻褄が合う。
なるほど、と私は妙に納得していた。
そして
…どうしよう、なんか自信なくなってきた…
「柳、なんで私なんかのことすきなんだろう…」
肩を落としてそう言うと、由井くんがプッと吹き出した。
柳がツカツカ歩いてきて、由井くんのことを睨みつける。
「お前ら、葉月に何か言っただろ…」
「柳…、私なんかで大丈夫…?」
「…帰るぞ」
柳に手を取られ、無理やりドアの方へと連れて行かれる。