パーフェクトブルー -甘くて眩しいきみの色-
「あっ、おい…!さっき来たばっかじゃねーかよ!」
「急用だ。帰る」
拗ねる2人をあとにして、私は柳に連れられたまま店を出てしまった。
「あいつらに何言われたかか知らないけど、変な気を使うな」
「…柳が社長息子だなんて知らなかった…」
「言ってないからな」
…それは、そうだけれど。
「それに、家族とはほとんど関わっていない」
お店に来たお兄さんの言葉を思い出す。
『いい加減に家に顔を出したらどうだ、佐百合』
柳が住んでいるのはおばあちゃんの家。
お兄さんの言葉通り、彼はずっと本当の家には帰っていないみたいだ。
その理由を、私は知らない。
「うちは昔から仲があまり良くない。特に父さんとは。…俺は家の重圧に耐えられなくて逃げた」
柳は長いまつ毛を伏せて、ゆっくりと話し始めた。
彼が前『若気の至り』と言って、今もなお阿久津沢高校に通い続けている事も、この言葉が理由だからかもしれない。
家の重圧。
その意味が、私にはよくわかった。
彼の家と私の家を比べてみることはできないけれど、なんとなくわかる。
彼は、きっと…自分の人生を生きたいのだ。
私の人生…
私だけの…
彼の言葉を胸に、私は自分自身に反芻する。
「家に帰らなくていいの?」
「帰るつもりはない」
「でも…お兄さんが"連れて帰る"…って」
私の声に、柳は口の端で小さく笑った。
「連れ去られないように、上手くかわす」