きみの色





6Bの柔らかな鉛筆の芯を、エスキースの上でゆるやかに動かしながら、家での出来事を考えていた。



美しい男に偶然出会い、家にあげた事。


あの美しい顔に触れたこと。


綺麗な横顔で、私の昔の絵を見つめていたこと。


全て覚えている。

間違いない、あれは現実だ。



「どう?鷹宮。課題できた?」



ご機嫌な野田の声が、私の頭上から降ってくる。


今日は課題提出日だった。



あの男が描き足した、とても素敵になった自画像は、一応持ってきている。


あれから自画像の顔を描き直そうと考えたけれど、この方が私に似ているような気がして、手は加えなかった。


そしてなんだか、この間抜けた顔が
絵を描く楽しさを教えてくれる魅力的な作品に見えてしまっているのだ。



それにこの絵を見るとあの男を思い出すから…。



「自画像は出す予定ない。間に合わなかったの。」


「ふーん、珍しい。優等生の鷹宮が間に合わないなんて」



適当な嘘をついた私に、野田は目を丸くした。



「ねぇ野田。……星みたいなマークが入っている制服、見たことある?」



私は野田の優等生という軽口を無視して尋ねる。



「星?」


「そう、こんな感じの…ーー」
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