きみの色

私はエスキースの端に、男の制服に入れられていた星の刺繍を描き出していった。


ダイヤ型の様な形が、いくつも連なってできた星の刺繍。
うろ覚えの形を、鉛筆で描いてみる。



「あぁ、知ってるよ。たぶんそれ、阿久津沢(あくつざわ)高校だろ」


「あくつざわ?」


「うん。ここらじゃ有名だと思うけど。知らない?俺の中学の同級生も何人か通ってる」



知らない、と首を横にふる。

初めて聞いた高校の名前だった。



生まれてからずっと、日美合格のための生活を強いられてきていた私は、他校の名前や、他校の風習、楽しい学園生活とは無縁だ。


卒業してからやっと、野田の通っている学校の名前を知り、街で見かける女子高校生の制服を可愛いと羨ましく思うようになった。



何も知らないことが、なんだか恥ずかしい。



「『特進コース』と『定時コース』っていう2つのコースがあって、それぞれ校舎もバラバラ。
特進は名門大学目指してる頭のいい奴らばかりが通ってるらしい。

俺の同級生も確か特進だったような…」


「…どうして有名なの?」


「もちろん特進が超頭良いってのもその理由のひとつだけど、阿久津沢の定時の奴らのがその原因だな。

…定時の奴らは手のつけようのないくらい荒れてるんだ。
街でしょっちゅう喧嘩してるのは阿久津沢の奴らだよ」



「こう、まっ黒い学ランに黒いボタン、白いラインが入ってる奴ら」と、自分のブレザーの裾をなぞって、白いラインの場所を示した。



間違いない、あの男はその阿久津沢の生徒だ。



「危ないから近づかない方が賢明だぜ」



と、野田はイタズラっぽく笑う。
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