きみの色

抵抗しようとしても、びくともしない。

あちらは笑って私を見ている。


そのまま乱暴に抵抗すれば、巻き込まれてカバンの中の絵が傷ついてしまう。


どうすればいいの。



「離してって言ってんでしょ!」



周りを見渡して助けを求めようとしても、近くには人がいない。



「ねえちゃんあんま大声出すなって。痛いことされたくなかったら静かにしないと。ね?」



1人の男がニヤニヤした笑みを浮かべながら、私の顔を掴んだ。
そいつの親指が、私の首に食い込む。



「っ…!」.



ギリギリと私の喉を圧迫してくるその手の力が、これが冗談なんかじゃない事をはっきりと示していた。


抵抗できない怖さで、目に涙が滲む。


涙が溢れるのを必死で堪えながら、私は歯を食いしばって、さらに抵抗しようとカバンを引っ張ろうとした時だった。



私の腕を掴んでいた茶髪の男が、勢いよく後ろに吹き飛んだ。


「ぐぇ」という潰れた声が、転がったのと同時に聞こえてくる。


それが、飛び蹴りをされて弾き飛ばされたのだと理解するまでに、少し時間がかかった。



私もその場にいた他の2名も一瞬呆気に取られて、茶髪の男を目で追いかけている。


ごろごろと転がった先で、うつ伏せのままぴくりとも動かない。



「離せよ」



聞き覚えのある声だった。

そうか、この男が茶髪に飛び蹴りをしたのか。

私の顔を掴んでいた酒を飲んでいた男の手を、あの阿久津沢の制服を着たあの美しい男が淡々とした声でそう言いながら力ずくで剥がした。


ゆっくりとした動きだったが、相当な力で腕を掴まれているのか、スキンヘッドの男の顔が
みるみる苦痛な表情に変わってゆく。


やっと自由になった私の体はそのまま地面にへたりと尻餅をついてしまった。


足に力が入らない。



「ぐっ…!クソッ!」



美しい男はそのまま、私の顔を掴んでいた男の手を離さないまま、相手の拳を避けて顔面目掛けて振りかぶった。


ゴッと言う鈍い音がして、スキンヘッドの男がその場に崩れ落ちる。


一切無駄がなく素早い動きだ。


阿久津沢の男はすっと目を細めると、そこに間髪いれずに長い足で蹴りを入れる。



「がぁっ!」



呻き声とともに相手はそのままそこに伸びてしまった。


それを見ていた残りの男が舌打ちをし、焦ったように後ろから阿久津沢の男目掛けて手を伸ばしたのを、まるでわかっていたかのように彼は手で受け流す。

そのままさっきの男と同じように倒してしまった。
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