きみの色

あまりに一瞬の出来事で、私はカバンを抱えたまま彼の動きを呆然と見るだけ。


たった一人で三人を、あっという間に片付けてしまった。


小さく息を吐いた彼がこちらを見る。



「大丈夫?」


「え、あ…うん」



地面に座り込んだまま、息も上がっていない彼を見上げる。

私が貼ったニコちゃんマークの絆創膏はもうない。

かわりに治りかけの傷跡が、前髪からちらりと覗いていた。


綺麗な群青の瞳が、少し不機嫌そうに細くなる。



「遅いと危ないって、前言っただろ」



彼の言葉通りだ。
ぐうの音も出ない。

私はごめんなさいと小さく誤る。



「…………何してんの?」



未だ地べたに座り込んだままの私を見て彼が不思議そうに言った。



「ご、ごめん…。足に力入らなくて」



「立てないの」と言い終えるよりも前に、彼が私の体をひょいっと抱えて立たせてくれる。



「歩けるか?」



足を挫いたわけでもないのに足元がふらつく。
体調が悪かったからかな。

怖い人たちに絡まれて本気で怖いと思ってしまったから?

それとも、彼にまた会えたから?


理由がわからないまま、ぐったりと疲れた自分の体が倒れないようにお腹に力を入れる。


足裏で何度か地面を確かめると、先ほどの出来事の緊張で強張っている体を無理やり動かした。



「送る。家直ぐそこだろ」



彼は私の家がある方向に顔を向ける。
彼の言った通り、私の家のアパートは歩いて直ぐの場所だった。



動きがぎこちない私を見かねたのか、彼は家のドアの前まで着いてきてくれた。

鍵を開け、靴を脱ぐ間もそれが終わるまで私の荷物を持って待ってくれている。



「ありがとう…」


「…これ、この前の」



荷物を返すときに、そのカバンの中身に気づいた彼は美しい顔をこちらに向けた。
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