きみの色

どうして彼が謝るんだろう。
怪訝そうな顔で私が見ているのにに気づいたのか、彼はそのまま理由を続ける。



「俺らのせいでもある。うちの高校と仲悪いから」



"俺ら"と言う言葉が気になったけれど、特に追求しなかった。

野田が言っていた、喧嘩で有名だという阿久津沢高校の話が頭に浮かぶ。


彼は紛れもなく阿久津沢の生徒の一人なんだ。


さっきのあの動き。

間近で喧嘩を見たのは初めてだった私でもわかる。


彼のはやさ、まるで流れを読んでいるかのような動き、一瞬の隙をついて相手を吹き飛ばす力。


その異常な強さは、この前見た血だらけの彼のイメージとはかけ離れていた。


だけどどうしてだろう。
天塚の人達のような悪さを感じない。

阿久津沢の生徒だとしても、この人はきっと優しい人だ。


私にはわかる。



「…助けてくれてありがとう」



私の拙いお礼を聞いた彼の表情がふ、と柔らかくなる。



「落ち着いたか?」


「うん…。首のとことか、痛いけど平気」



先ほど手をかけられていた部分がジンジンと痛む。



「顎あげて」



首をさする私の手を遮って、彼の指先が喉の辺りに触れた。

思わず体を後ろに引いて、びっくりした顔で目の前にやってきた彼を見ると「あ…、悪い」と、申し訳なさそうな顔をされる。



「び、びっくりしただけ」



目の前に急に美しい顔が現れたのだ。

そしてその手が優しく私の喉に触れている。



「平気。あなたは怖くない」



その言葉で、彼の顔色が安心に変わった。
< 26 / 139 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop