きみの色

確認にはなっていない。

揶揄うように言った彼に何も言い返せない。


彼の完璧な笑顔に見惚れて、冗談のひとつも思い浮かばない。



「アンタは画家になるのか?」



静かな私を見かねてか、彼が話を振ってくれる。



「…どうして?」


「絵を描いてるだろ」



彼は部屋に散らばったキャンパスに目を向けた。



「画家になりたいってわけじゃ…、ない、けど…」


「ならどうして絵を描いてんの?」



どうして…


私はどうして絵を描いてるのだろう。

絵が好きだから。

だけど一体なぜ?


なんのために描き続けているの?


なにか答えを言おうとしても、言葉に詰まってなにも出てこない。



「……わからない……。おかしいよね、自分の事なのに」



床に座ってベッドの淵にもたれかかった彼を、ベッドの上から盗み見る。


彼の綺麗な横顔は、部屋のどこかを見つめていて、何を考えているのかわからない。



「…自分のことを全部理解してる奴なんていない」



ぽつりと彼が言葉を紡ぐ。


私に言っているようで、他の誰かに言っているかのような、独り言みたいな言い方。



「自分がここにいる理由なんて、そう上手く見つけられない」



「だからアンタは可笑しくなんかないよ」と、彼は唇の隅で笑った。


はじめて、誰かに言われた肯定の言葉だった。

ずっと間違いだと思っていた、どうすれば褒めてもらえるのか、今のこの私が大丈夫だと言ってもらえるのか。


ずっとずっと考えて、苦しくて、鬱陶しくなって、もう考えることをやめていた。


それなのに


彼のその、少し掠れた心地よい声が、
私の頭の中にあるぐちゃぐちゃに絡まった糸をそっと解いてゆく。

私だけじゃないんだ。



どこまでも完璧な顔がこちらを覗き込む。


もっと近くで見たいのに、目を見ると頭がぼうっとしてずっと見ていられない。


吸い込まれそうな瞳を見ていると、姿勢を低くした彼の顔が急に近づいてきて、2人の距離が近くなった。


私の肩をトンと優しい力が押す。


そのまま後ろに倒れ込んだ私。

私の足の横に膝をついて、押し倒されたような体勢になってしまった。



「もう寝たほうがいい。さっきよりマシだけど顔色悪い」



鼓動が早くなるのも束の間。

どうやら体調が悪そうな私を気遣ってくれたらしい。



「あ…、そんな酷い顔してた?」


「絡まれてるアンタを見つけた時、真っ青でちょっと焦った」



それを聞いて、はは…と笑って見せる。

確かにあの時は、倒れそうだったし怖くて震えていた。
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