きみの色

家に着くと、すぐさまエアコンのスイッチを入れる。


まだ7月が始まったばかりだというのに、もう蒸し暑い空気が部屋に充満し始めている。

髪が汗で首に張り付いて気持ち悪い。



先ほど担任に触れられた髪を手で何度も擦る。

どうにかしてあの感触を忘れられないだろうか。

思い出すだけで気持ちが悪くて吐きそうだ。


ベッドに仰向けになって倒れると、携帯の着信メロディが部屋に響いた。



画面には『鷹宮(たかみや) (さとる)』の文字。


父だ。



無視しようか迷ったが、何度か繰り返しの音楽が鳴った後、渋々携帯を手に取る。



「はい」


『…葉月』



名前を呼ばれて体が凍りつく。


父に名前を呼ばれるのは私が受験に失敗した時以来だ。



「なに?」



『明後日から個展でニューヨークに行く。もし何かあれば私のマネージャーに連絡してくれ』


あぁ、なんだ。
そんな事か。

体に入っていた力が抜けてゆく。



「わかった。」


『最近はどうなんだ。塾の成績は』



別に気にもなってないことをわざわざ聞いてくるなんて。


半年前に、私を見放した父はこうして業務的な連絡以外は連絡してこない。


なのに、今日は私の塾の成績が気になる?

期待してすらいないだろうに、そんな事
わざわざ聞かないで。



『今年はいけるんだろうな?おい葉月、答えなさい』



淡々とした口調だが、その低くて威圧的な声が私の心をさらに逆立てた。
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