パーフェクトブルー -甘くて眩しいきみの色-
なぜ彼がここに来たのか、理由を聞いても毛頭理解できない。
「気になるんだよ、アンタが」
どういう状況か飲み込めなくて、頭の中は戸惑いと困惑で埋め尽くされる。
彼は、私の帰ってほしいというお願いは聞いてくれずに、ただ真っ直ぐ私のことを見つめている。
「さっき、怒っていただろ。何であんな顔をしてたんだ?教えてくれ」
「ちょっと待って。それだけでここまで追いかけてきたってこと?」
冗談を言っているようには見えない。
「どうかしてる…」
心の声がそのまま口から出てしまう。
だって、たったそれだけの理由で
追いかけてくるなんて…
「あぁ、どうかしてる。けど、気になって仕方ないんだよ、アンタの事が」
真剣な顔で彼がそう言った。
「アンタがどうしてそんな顔してるのか。何に怒ってるのか。何を考えてるのか」
そして、眉根を寄せてこう言った。
「アンタはずっと、何に怒ってんの?」
怒ってる?
私が?
彼の言葉を反芻して、思わず乾いた笑みが溢れた。
…あぁ、そうか。
私はいつも怒っていたんだ。
だから苦しくて、こんなにも辛い気持ちになるんだ。
特別な何かを信じて、いろんなことを許したいのに上手くいかなくて
腹が立っていたんだ。
「…全部」
柳のドアを遮る手を見つめる。
やめて、そんな顔で私を見ないで。
「全部にだよ」
声が震えて上手く喋れない。
「私より優秀な奴にも、汚い手で触ってくるあいつにも…、
あれだけ私に寄り添って応援してたくせに、出来なかったらすぐ手放した家族にも…!
全部全部…!」
何もかもに、ムカついて
腹を立てて、
ずっとずっと怒っていた。
こうやってあなたに全部話してしまってる自分自身にも…
自分の弱さを留めておかないことにも。
「なんでこんなにも頑張ってんのに、なんで……私、…何のために描いてんのか…もう、わかんない…っ」
頭ではわかっているのに止められなかった。
何かが決壊したみたいに、涙も感情も言葉も溢れて止まらない。
柳がそっと、震える私の肩を掴む。
「っ……」
そのままゆっくりとさするように撫でた後、私の手を引いてそのまま抱きしめた。