パーフェクトブルー -甘くて眩しいきみの色-
やめて、と小さな声で拒んでも、柳は離してくれない。
彼の手は私の背中に回され、その手が何度も背中を優しくさする。
まるで子供をあやしているみたいに。
彼の香水が鼻をかすめる。
甘くて石鹸みたいな匂いの中に、苦さがある
ちょっぴり大人な香り。
とうとう私は彼の優しさに飲み込まれて、縋り付くようにして泣いてしまった。
もう全部うんざりだ。
どうして何もかも上手くいかないの。
シャツを握りしめた指先が、力の入れすぎで白くなっている。
その甲にポタポタと涙が鼻水かわからないものが落ちていく。
ずっとこうして誰かのそばで泣きたかった。
子供みたいに駄々をこねてみたかった。
こうして優しく受け止めてくれる人が欲しかった。
悲しい気持ちになった時に、何も言わずにそばにいてほしかった。
そうしていれば、今の私はもっと違う時間を過ごしていたかもしれない。
「何のために描けばいいのかわからないのなら、俺のために描けばいい」
「え?」
抱きしめる力を緩めた彼が、体を少し離してそう言った。
心地よい声が、頭の上から降ってくる。
彼の声は、とても穏やかだった。
「俺はアンタの絵が好きだし、アンタの絵を見ると良い気持ちになる。
だからアンタが自分のために描きたいと思えるようになるまで、理由は俺にすればいい」
「誰かのことを思って何かしたほうが、何もないよりマシだろ?」と続ける。
「その、いつも顰めっ面のアンタが、何かに夢中になってる顔が見たい」
私の頬に落ちた涙を、彼のやさしげな指先が拭う。