パーフェクトブルー -甘くて眩しいきみの色-

「今日は課題発表の日だが、来週のこの時間までに自画像を1枚。描くものは紙でもなんでも構わない。…まぁ、キャンバスの方がいいかもしれないね。

それと、加えて自由制作1枚。サイズも手法も問わん。それぞれ行きたいコースの入試を踏まえてやるように」



説明とともに課題内容が書かれたプリント用紙が配られる。



自画像。

じがぞう…。


私は心の中で反芻した。



いままでいろんなものを描いてきたけど、自画像は描いたことがない。



「今日は静物デッサン。この中から各自3つモデルにするものを持っていって。2時間後に合評ね」



先生の言葉と共に生徒が動き出し、黙々と鉛筆を動かし続ける時間が続く。


先生はゆっくりと教室内を巡回し、たまに生徒にアドバイスの言葉をかけていた。



ちらりと横の野田を見る。



先ほどのやる気のなさそうな顔とは打って変わって、鋭い瞳がキャンバスを捉えていた。


手元の鉛筆が素早く流れるように動いている。



「鷹宮、ペースが遅くないか」



私の背後で、担任の声がした。



ハッとして手を動かす。

 
加齢臭と、タバコの混じったような臭いに
思わず顔を顰めてしまいそうになる。


そのまま先生は私の肩に手を置いた。


その手が汗ばんでいることが感触でわかる。


触れられる意味がわからず、私は鉛筆を替えるフリをして身を捩った。



気持ち悪い。



前から薄々気が付いてはいたけれど、この担任は必要以上に女子生徒にベタベタと触ってくる。



しばらく背後に立って私の鉛筆の動きを見るとそのまままたゆっくりと巡回しはじめた。


背中に感じていた嫌な緊張感から開放される。



浅い呼吸の中で、ひたすら目の前のモデルとキャンバスに視線を巡らした。


もっとはやく、もっと上手く。

より正確に。

線は真っ直ぐ、力を入れすぎない。



心の中で唱えながら描き続けていると、あっという間に合評の時間になっていた。

< 5 / 173 >

この作品をシェア

pagetop