きみの色
これで少しはマシになるだろうか。
掃除用具入れを開けて雑巾とバケツを手に取る。
「誰かいるのか?」
後ろから担任の声がして、驚いて飛び跳ねてしまった。
誰もいないと思っていたから…
心臓が止まるかと思った。
「や…水溢しちゃって…。雑巾を取りに…」
「鷹宮か。……まだ残ってるのか」
「…すみません。すぐ片付けるのでもう少し待ってください」
担任の森田という男は、ぎょろりとしたカエルみたいな目を意味ありげにスッと細めた。
「……あの、通りたいんですけど……」
この人、嫌いだ。
なるべく2人きりでいたくない。
なのに教室に戻ろうとしても、担任が出入り口のドアの前にいて出られない。
それに、私が声をかけてもなお担任がその場所を動く気配がない。
…なんなの?
「最近授業に対する意欲が下がってるみたいだけど、私生活で何かあったの?」
「…? いや、…え?何もないですけど…」
授業態度のこと今追求してくるの?
それに、私は1日欠かさず真面目に授業を受けている。
訳のわからない状況で、担任はドアの前からどくどころかさらに話しかけてきた。
「前の面談でも言ってたよねぇ、ランクは下げないって。けどなんか最近やる気なさそうみたいだしねぇ」
舌足らずな声、耳障りな喋り方。
ニヤニヤと笑いながら、自身の額に滲んでいる汗を拭っている。