きみの色



出入り口の前は担任が塞いでいて通れない。

けれど、この準備室の出口はその一箇所だけだ。




「そんな怖がらなくても…ははっ。やっぱり鷹宮は優等生だなぁ」




そのぎょろりとした目が上から下にゆっくりと上下し、私の体を舐め回すように動いた。




前々からセクハラがひどいと薄々気づいていた。

なのに私は何も言わずに見過ごした。


馬鹿だ私。


だからこうしてコイツに隙を与えてしまったのだ。



動け私の足。

動け動け。



そう念じた直後、意を決して私は勢いよく飛び出した。

手を伸ばしてくるのを力の限り突き飛ばして出入り口の扉に手を伸ばす。



森田はバランスを崩して、横にあった机に激しく突っ込んだ。


ガシャーン、と立てかけてあったイーゼルが倒れ、机の上に載せてあった本や画材が床に落ちる。



「なんで!?開かない…」



やっとのことで掴んだドアノブなのに、いくらを回してもドアが開かない。

ガチャガチャと音を立てながら私はドアをゆすった。




「クソッ!」



「きゃっ!!ーー」



内鍵をかけられたことを察した瞬間、Tシャツの後襟を後ろから捕まれそのまま力一杯床に倒されてしまった。


脇腹あたりに、椅子の角が食い込み
鋭い痛みが体を駆け巡る。



「いっ……!…っ」



「…こらこら…何するんだよ。痛いじゃないか…」



痛みに悶えながら見ると、フーフーっと荒い息をしながら森田はこちらを見下ろしていた。


さっきまでのニタニタした気味の悪い表情はなく、突き飛ばした私に憤怒しているようだ。




「近づかないで!気持ち悪い…。警察呼びますよ!」



「呼べるもんなら呼んでみてよ、ねぇ?
ここには君と僕しかいないのにどうやって?」



立ちあがろうとしたが、先程の衝撃で
うまく動けない。


それを見てまた笑った森田が素早く近づき、私の腕を掴んでもう一度投げ飛ばすようにして机の方に体を押し倒してきた。



上半身が机の上に乗り上げる。



クリーナのボトルが肩のすぐ横に落ちて割れ、中身が私の服を浸していく。


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