きみの色
森田の悲鳴と共に、体にのしかかっていた重みがフッと消えた。
ガシャーーンッ!
ガラスが割れる音と、何かが崩れた音。
大きな衝撃音が準備室に響いた。
目を開けると、
そこにいたのは柳だった。
なんで……
柳は無表情のまま森田の胸ぐらを掴むと、力いっぱいその顔面を殴打した。
バキィッと、何かが折れたような鈍い音がする。
「なな、な、なんだお前は…!」
殴られた衝撃で床に尻餅をついた担任は、狼狽しながら叫び声を上げた。
後ろ姿しか見えないが、いつもの柳とはまるで違う。
彼の周りの空気だけが凍りついているみたいだ。
「おっさん、今何してた」
聞いたことのないとても低い声。
「誰なんだお前はァ…!…いっ」
「聞いてんだ、答えろよ」
ゆっくりと柳が近づいてゆく。
森田は殴られた方の顔を抑えながら泣き喚くような声で言った。
「そ、その女が…ーー!がっ…!」
口を開いた森田の言葉が続かぬうちに、柳がもう一度力強く殴る。
森田の鼻からは血が吹き出していた。
さっきまでの威勢はもうなく、怯えたような表情で後ずさった所を、柳が首元を掴んで無理矢理立たせる。
「や、やな…ぎ…」
私が名前を呼んでも柳は振り向かない。
「うぅっ…!」
呻く森田の体に柳の長い足がめり込んだ。
勢いよく吹き飛んだ森田が立てかけてあったキャンバスの山に突っ込み、大きな音が鳴る。