きみの色
「髪、いいな。新鮮」
優しく笑う彼を見て、また胸がきゅっと締め付けられる。
この人は、美しくて、綺麗で、完璧で
それでいて優しい。
そんな彼が、いま私だけに向かって笑いかけてくれてる。
私はどうしようもなく、この人のことが好き。
2人で家を出ると、暑い日差しの中『orchid』に向かった。
汗でびっしょりになった私とは対照的に、彼は暑さなど感じさせないくらい涼しげだ。
太陽の光が、より一層彼の白銀の髪を際立たせている。
『orchid』のあるビルに着くと、隣のビルの入り口に張り紙がしてあるのに気がついた。
内容は遠くてよく見えないけれど、きっと昨日の事が関係しているのだろう。
もうこの時間なら生徒が出入りしてもおかしくないのに、そこはいつもと違って静かだった。
生ぬるい風が、私の体を通り抜けて行く。
思い出さないように、記憶の蓋が開かないように、と心がけてはいるもののふとした瞬間脳裏にあの時の気持ち悪さがよぎる。
けれど、自分で思っていたよりも体も気持ちも大丈夫そうだった。
それはきっと柳や、その友達の彼らが助けてくれたおかげだ。
自分の心配よりも、昨日の件で授業がなくなってしまったであろう他の生徒に迷惑をかけてしまったのではないかと、申し訳なさすら感じていた。
「葉月」
彼に呼ばれてハッとする。
心配そうな瞳がこちらを見ている。
私は駆け足でビルの階段へと向かった。