きみの色


「いらっしゃい」



ドアベルの音と共に、カウンターからオーナーの女性がにこりと笑ったかと思えば、柳を見た途端「なんだ佐百合か…」と、がっくり肩を落とした。



「あの…昨日はどうもありがとうございました」



柳の後ろから顔を出し、カウンターの女性に向かってぺこりと頭を下げると、女性は目を輝かせてニコッと笑った。


表情が豊かで、明るい、とても素敵な女性だと思った。



「お礼なんていいのにー!いらっしゃい…体はもう大丈夫?」



「はい…」



心配そうに気遣ってくれるその様子は、お世辞や建前ではなさそうだった。




「良かった…!ゆっくりして行って、うるさいのばっかりだけど…」



そう言ってうんざりとした顔を奥に向けると、視線の先にはおなじみの赤髪の子と、茶髪の長髪の人がいるのが見えた。


柳は奥にいるふたりのもとへと歩いて行く。



私は女性に案内されるがまま、カウンターに腰を下ろした。






「自己紹介もまだ…よね?…私は由井 蘭子(ゆい らんこ)。ここ『orchid』のオーナーよ」



「鷹宮葉月です」



「……鷹宮って…、もしかしてあの鷹宮聡の娘…?」



蘭子さんは大きな目を丸くして私を見た。



父はいわゆる有名人だ。

国内、海外でも個展を開いたりしている名の馳せた画家で、時々その大きな規模が番組やネットの記事なんかに取り上げられている。


私が父から圧力をかけられているのは、彼の娘だからで、日美は彼の母校でもある。


有名な画家の娘が、日美にも行けていないなんて。

父からすれば恥ずかしいのだろう。



蘭子さんは「すんごー」と彼の娘である私を褒めながら握手を求めてきた。


華奢で指が長い、綺麗な手だ。

黒いネイルが似合っている。




「はいコレどうぞ。サービスよ」と、蘭子さんが目の前に緑色のクリームソーダを出してくれた。


上に乗った赤いチェリーと小さな泡がぷくぷく動く綺麗な緑色。


バニラアイスが溶けて、ガラスから少し溢れている。


暑さでカラカラだった私の喉に、冷たいソーダが染み込んでいく。


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