きみの色








「本当に良かったの?お店出ちゃって」



「あのままいたら深夜まで話に付き合わされる」



深いためいきをもらしながら、柳は目頭を揉んだ。


由井くんに引き留められるのを無理やり剥がして店を出た私たちは、荷物を取りに行くために私のアパートへと向かっていた。




「ふふ、楽しい人たちだね。みんな」



微笑みかけると、「まぁな」と柳は小さな声で頷く。




久しぶりに見た気がする自分の部屋は、何も変わっていなかった。


相変わらず、女っぽさのかけらのない
がらんとした部屋だ。


画材の匂い。


鼻の奥がつんとする。


なるべく絵の方は見ないようにして、
必要な荷物をまとめていく。



元々そんなに物が多いタイプじゃない。

一つのカバンにまとめるにはそう時間はかからなかったけど、人の家に泊まるのなんて初めてのことで、何を準備すればいいのかわからない。



「それだけでいいのか?」



化粧品と、着替えの服と、貴重品類。



「…うん。…本当にお世話になってもいいの?」



そこまで長居するつもりはないけど、やっぱりちょっと申し訳ない気持ちがある。



「1人でも平気だよ?」



おばあちゃんの美味しいご飯を食べて、『orchid』のみんなと楽しい時間を過ごせて、私の心はもういつも通りの日常に戻る準備ができていた。



「だめだ。せめて今週だけでいい、一緒にいてくれ」



柳が私の手を握る。



「俺がアンタを1人にしたくないんだ」



張り詰めた表情で私を見た柳の手は、少し冷たかった。



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