パーフェクトブルー -甘くて眩しいきみの色-
自分の片付けを終えた私は、暗い気持ちのまま早足でバイト先へ向かった。
塾から街に向かったところにある交差点近くの24時間営業のカラオケボックス。
業務と時給の割が良くて、一年前から働いている。
カラオケ前の交差点には、帰宅途中の会社員や買い物帰りの人、様々な人たちが行き来していた。
シマシマ模様の横断歩道が、信号の色に照らされ赤く光っていて綺麗だ。
スプレー缶でふんわりと塗装したみたいな、そんな色。
信号待ちをしている時だった。
視界の隅で黒い影が動いた瞬間
横に止めてあった自転車が、大きな音を立てて倒れた。
ガシャンッー!
私を含めその場にいた人が皆、その音の元へと注目する。
交差点すぐ横の自転車置き場。
将棋倒しになった自転車の上に、一人の男の人が伸びている。
よれた白いシャツは所々汚れていて、赤い血のようなものが斑点のように散っていた。
「おーいヤナギ?いつもの勢いはどうしたー?」
背の高いがっしりとした男が、(おそらく)自転車に倒れ込んでいるであろう人の名前を呼ぶ。
声をかけた男の後ろには数人、似たような背格好の男が、にやにやと不敵な笑みを浮かべて立っていた。
倒れ込んだ男が小さく呻く。
信号のライトに照らされている、ほぼ白に近い綺麗な白銀色の髪の下から覗く鼻からは、真っ赤な血が流れていた。
その血が唇を伝って、彼の口元を赤く染めている。
真っ白な髪と赤。
その強いコントラストが、より一層彼の血を引き立てている。
喧嘩だ、と周囲がざわつく中。
私はその倒れ込んだ男に目を奪われていた。
あまりに美しい顔だ。
まるで彫刻みたい。
顔をべっとりと汚している血さえも、その美しさの一部になっているみたいだった。
倒れた痛みで歪んだ表情にも関わらず、その顔立ちはどこか儚げで、綺麗だ。
「ほら、お嬢ちゃん危ないよ」
横にいた60代くらいの女性が、私を促すようにして背中を押す。
ハッとして信号を見ると、すでに青いライトが点灯していた。
騒ぎの一番近くにいた私が、喧嘩に巻き込まれないように、といった善意だろうか。
私は押されるがままに横断歩道を渡り、慌ててその場を後にした。