きみの色
荷物を片付けてから、私はTシャツとデニムに着替えてバイトへ行こうと思ったが、まだ少し時間があったので『orchid』に寄って、晩御飯を食べてから行くことにした。
夕方以降にBARを訪れるのは初めてだったので、暗くなった店内がまたより一層大人っぽいおしゃれな空間になっていてすこし気が引ける。
「葉月ちゃん、いらっしゃい」
笑顔で出迎えてくれた蘭子さんは今日も眩しいほど素敵だ。
カウンターの席に座って、メニューを受け取り
ナポリタンを注文した。
dining&barということもあって、軽食メニューからガッツリとした主食メニューもあり、選ぶのに迷った。
こんなにも多いメニューを蘭子さん1人で切り盛りしているというから驚きだ。
「どう?今日からお家に戻ったんでしょ?寂しくない?」
蘭子さんが手際よく調理をしながら尋ねてくる。
どうしてそれを知っているのだろう、と一瞬考え込んだ顔を見抜かれたのか
蘭子さんが弁解するように笑った。
「無理やり佐百合から聞き出したの。ごめんね?」
「いえ…!寂しいというか…なんだか現実に引き戻された…みたいな感じで…」
「現実?」
「ずっと1人だったので…、柳のおばあちゃんとご飯作ったり、家の掃除一緒にしたり…、すごく楽しくて」
仲のいい家族ってこんな感じなのかな、とあたたかい気持ちになった。