きみの色
口をぽかんと開けたまま、柳を見上げた。
彼の表情はいつともと変わらない。
私の視線に気づいて、その表情がやわらかくなる。
この人が、私の彼氏と呼べる人なのか。
店長が「もう仕事はいいから上がりなさい!」と、半ば無理矢理に私を追い出し、柳の行き道にある事務室まで一緒に彼と歩く。
「柳って、カラオケとかするんだ。歌うの?」
「いや、歌わない。あいつらのを聞いてるだけ」
「だよね。ふふっ、歌ってる柳、想像つかないもん」
部屋から漏れるバラードの曲が、廊下にぼわんとひろがる。
「家まで送るか?」
「ううん、平気。1人で帰れるよ」
「そうか…じゃあ、気をつけて帰れよ」
事務室の前で足を止め、私を優しく見る柳に胸がきゅっと締め付けられた。
「やなぎ」
できればこんなクソダサイ格好でいうことではないのかも。
だけど
どうしても伝えたくて。
「あの、…私…、」
こんな風な人に伝えるのははじめてで、言葉が上手く続かない。
「もう、知ってるかもしれないけど…
私、柳のことが好きだよ。…とても」
私は今どんな顔をしているのだろう。
ひどく間抜けな顔をしているに違いない。