きみの色
昔読んだ児童書の悪役に、荊棘の城に住んでいた魔王というキャラクターがいた。
幼稚園のみんなは囚われた姫を助けに行く星の王子が好きだったけど、私はなぜかその魔王が好きだった。
姫を攫ったことが世界に知れて、王子に剣で退治されてしまう。
ただ一目惚れした姫を自分のものにしたくて、攫っただけのなのにね。
その魔王の悲劇のシーンに、よく似ていた。
血だらけの男。
あの日から三日経った今も何度も私の頭をよぎる、あの人間離れした美しさ。
あんな顔、近くにあったら
喜んで描くのになあ。
薄暗い街頭が光る帰り道、荷物を抱えながら
道端にあった石ころを蹴飛ばした。
深夜12時。
コンビニと街頭の光だけが、夜道を照らす。
家に帰ったら課題の続きをやらないと…。
自由制作は終わったものの、肝心の自画像は
顔だけぽっかりと穴が空いたような出来だった。
自分の顔がまだ描けずに、髪型だけ私そっくりののっぺらぼうが、イーゼルの上にのっかっているままだ。
何度筆を持っても、進まない。
私の顔を写す用に用意した鏡に写った、自分の顔がわからないのだ。
なんだか怒っているようにも感じるし、悲しそうでもいる。
自分の顔をまじまじと見つめていると、そのうち頭の中でパーツがバラバラになってよくわからなくなってしまう。
そして父の言葉が呪いのように降りかかる。
素晴らしい人になれるよ
この鏡に映った自分が、素晴らしい?
その言葉に呆れ尽くして嫌になって筆を置く、の繰り返し。