シリーズ全UP済。果物のように甘いだけじゃない
ふと視線を感じて振り返ると、大くんは今にも泣きそうな切ない表情で私を見ていた。



「……こうやってずっと……、手を合わせてたのか?」


「うん。生まれていたらもう、十歳。きっといい子に育って可愛い子だったんだろうな。一緒に料理したり買い物をしたり。十歳なら、お洒落にも興味を持ち始めるだろうから、ファッション誌を一緒に読んだりして、あーだこーだ話してさ。はなに、会いたかったな……」


この世の中にいないし、きっとはなはどこかで新たな生を受けて生まれ変わっている気がしたけど、絶対に忘れられない。いつも生まれていたらって想像してしまう。

「会えない間、辛い思いをさせてごめんな。本当にごめんなさい。許してほしい。一生かけて償うから」
「そんな、謝らないで。お互い様だよ。大くんだって辛かったんだよね? もう、過去のことだから……ね。気にしないで」


そう。過去のことなんだからお互いに許し合えばいい。
無かったことにはできないけれど、未来を見なければいけないと思う。
そして――今度こそ、本当にお別れするのだ。
大くんは熱愛報道があって綺麗な人と付き合っているのだから、淡い期待を抱いてはいけないと思う。


「美羽」
「ん?」
真剣に見つめられるから、動揺してしまう。どうしてそんなに熱を帯びた目で見てくるの……?
「もう一度、俺の彼女になってもらえませんか?」
「え」
唐突な告白に驚いて目を丸くしてしまう。も
しも……傷つけた過去の償いで付き合おうと考えるなら、やめてほしい。もっと深いところで傷ついてしまいそうだから。
「美羽」
あまりにも切ない声で名前を呼ばれるから、甘くて切ない感情が心にジーンと広がった。
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