シリーズ全UP済。果物のように甘いだけじゃない

第三章

『今晩、歌番組に出るから、時間があれば見てね』
金曜日、仕事を終えたのは十九時。
今から家に戻ったらギリギリ間に合うかもしれない。
大くんからのメールが届いた携帯をそっとデスクに置いた。
家に突然訪れた日から一週間、毎日メールを送ってくれる。
携帯に新着メールがあるかチェックするのが楽しみになりつつある私は、まるで好きな人からのメッセージを待っているピュアな女子高生のようだ。
「終ったの?」
千奈津が声をかけてきた。
「うん。千奈津、今日は随分可愛い格好してるね」
「ああ、うん」
顔を赤くしてデートなんだ、と小さな声で教えた千奈津は、なんだか可愛い。

家に帰り慌ててテレビをつけると、番組はすでに始まっていた。
まだCOLORの出番ではないようだ。


夕食を取るのも忘れて画面に釘付けになって、大くんの姿を探していることに気がついて、ハッとした。
やっぱり、私は大くんを愛しているのだと実感してしまう。そして、今度はいつ会えるのだろうかと、ついつい考えてしまうのだ。
COLORが登場して名司会者とトークをし、曲紹介をされて歌い出す。仕事モードの甘いマスクをして歌っている大くんもいいけど、プライベートでの大くんのあどけないところも大好き……。

なんて素敵なんだろうと惚れ惚れしている自分に、情けない気持ちになった。
他の誰かと比べるのはあまり良くないことだけど、千奈津は今頃デートをしているのに、私は芸能人を見てはしゃいでいるいちファンにしか過ぎない。



もう、二十九歳なのに何やってるんだろう……。
やっぱり、杉野マネージャーが誘ってくれた時にもっと親しくなっておくべきだったのかな。もうそろそろ身を固めたいのに、恋心は一人勝手に動き出す。
テレビ番組が終わってから一時間後、大くんから電話が来た。
『美羽。見てくれた?』
「うん。いい曲だったね」
『ほんと? ありがとう。……あのさ、美味しい赤ワインもらったんだけど飲まない?』
「いいね」
『……今から、行くわ』
「え、」
『お願い。美羽に会いたくてたまらないんだ。待ってて。一緒にお酒飲もう』
来ると言ったら絶対に来る。大くんは自分の言ったことを曲げないところがあるのだ。

< 104 / 291 >

この作品をシェア

pagetop