シリーズ全UP済。果物のように甘いだけじゃない
「わ、こんなに買ってきたの?」
チーズやら生ハムやら色々とワインに合いそうなものを買って来てくれた大くん。
「腹減ってさー」


ふと目が合うとにこっと笑ってくれる。
さっきまでテレビに出ていた人が目の前にいるなんて、不思議な気分だ。


「さ、食おう」
「うん。あ、ワイングラスなんて無いな……。どうしよう」
「いいよ。普通のコップで」
「色気なくてごめんね」
「気にしないさ。美羽と酒を飲めるだけで、俺は幸せだよ」
くさいセリフなのに、大くんが言うと様になる。
コップに注がれた赤いワインで乾杯する。
「あ、美味しい」
「美羽も酒の味がわかるほど、大人になったんだな」
「うん」


ゆっくり流れる優しくて温かい時間。大くんと一緒にいると幸せだと感じる。もっと、もっと、そばにいたい。
ソファーに並んで座っている私と大くん。
ちらっと大くんの方を見ると目が合った。黒く光っている瞳に見つめられるだけで、溶かされてしまいそうな気持ちになる。この胸の高鳴りをどうやって落ち着かせたらいいのかな。


「ね、美羽。キスしようか」
「は……い?」
顔が近づいてきて、髪の毛に手が差し込まれる。
そして、私を引き寄せると、チュッと優しくキスをしてきた。逃げなきゃ……って思うのに、体は言うことをきかない。だんだんと体が熱くなってくるのは、アルコールのせいだよね?
唇が離れたかと思うと、再びくっついてきて、唇を挟むようなキスをした。
じっと見つめられ、濡れた唇を親指でそっと撫でてくる。

「美羽。逃げないんだね」
「……逃げられるわけないでしょ」
「どうして?」
大くんは意地悪だ。私の気持ち……わかっているくせに。
そんな気持ちを込めて睨むと、大くんはとても優しい顔をした。
「今度は、何があっても離さない。だから」
「大くん。駄目だよ。結ばれる運命なら、きっと過去にも結ばれていたはずだし。赤ちゃんも生まれてくる運命なら生まれていたはずだよ」
「じゃあ、運命が決まっているとしたら変えてやればいいじゃん。これからの未来は二人で決めていくべきだと思う」
ちょっとだけ強い口調で言った大くんは、私を抱きしめた。
「信じてほしい」
「大くん……」
私はコクリと頷いた。大くんと付き合うということは、きっと色んな試練があるかもしれない。ファンの人たちに認められないかもしれない。
でも、もう……この愛は止められない。


――いけないことをしていると、思わないこと。
――俺との付き合いに、罪悪感を抱かないこと。
――俺が美羽を愛していると信じ抜くこと。
大くんの言葉を思い出しつつ、仕事をしている。
誰からも祝福されないかもしれないけど、自信を持って大くんを愛したい。
合鍵もプレゼントしてくれて、好きな時に家においでと言ってくれた。
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