シリーズ全UP済。果物のように甘いだけじゃない

大くんの家はあまり物がなくてフローリングの上に家具が置いてある。シンプル過ぎて人が住んでいないみたいだ。
キッチンに立って不器用な手で野菜を切っていく。

「大くん……喜んでくれるかな」
四苦八苦しながら野菜を切り終えて煮込んで味噌を入れた。
あ、ご飯も炊いたほうがいいのかな……。と、考えている時にリビングの扉が開いた。

「美羽!」
私を見つけた大くんは、顔がパッと明るくなり嬉しそうに近づいてくる。
「玄関に靴があったから、びっくりした。美羽、来てくれたんだな!」
後ろから抱きしめてくれた。
大くんは、本当に心の底から私のことが好きみたい。でも、寧々さんと関係があるのではないかと不安になる。

「何作ってくれたの?」
「あ、豚汁……。でね、ご飯を炊こうかと思ったんだけど」
「いいよ。俺、夜は炭水化物抜いてんだ。太っちゃうからさ。美羽食べるなら炊いてあげるよ」
「私はいいの。味見で、お腹けっこう膨れちゃったから」
「美羽らしいな」

クスクス笑って鍋の蓋を開けてかき混ぜた大くんは「ウマそうじゃん」と言ってくれる。味の保証はできないけど、一生懸命作ったのは間違いない。

食卓テーブルに向かい合って座り、お椀に豚汁を注いだだけの夕食が始まった。サラダとか、色々作ってあげたかったんだけどな。大くんは、ニコニコしていて「美味しいよ」と言ってくれる。

「ちゃんと出汁も効いているし、野菜の甘みも溶け出して美味しい。美羽、料理の腕上げたね」
「ありがとう」
大好きな大くんに褒められると素直に嬉しい。幸せな時間が流れているけど……ふっと、寧々さんのことを思い出す。聞いてもいいのかな。でも、怖くて聞けない。
< 108 / 291 >

この作品をシェア

pagetop