シリーズ全UP済。果物のように甘いだけじゃない

次の日は、朝から急遽新企画を作り上げることになって、忙しい一日だった。
仕事を終えて会社のビルから出たのは二十一時。
「なんだろ」
高級車があったから偉い人に用事でもあるのだと思った。
すると、中からスーツを着た男性が出てきて、私の方に向かってくる。固まっていると目の前に来た男性は「初瀬美羽さんですね」と声をかけてきた。

「は……い」
「宇多寧々のマネージャーです。車に宇多がいます。少しお話したいことがありますので、お時間をいただけますか?」
宇多寧々さんは、大くんのことが好きで、きっと私は邪魔な存在なのだろう。
「有名人が私になんの用事でしょうか?」

大声で助けを呼ぼうかと考えつつ、警戒しながら男性を睨む。

「紫藤大樹についてお話があるそうです」

その名前を出されると、私は行かなきゃいけない気がした。危険な行動かもしれない。でも、逃げてはイケない気がした。
後ろの席のドアが開かれて中に乗ると寧々さんが不機嫌そう表情をしていた。そして、綺麗な顔を向けてくる。

「遅くにごめんなさいね。あなたにお話があって」
「……いえ」

車はその場から動かない。
外からは中が見えないようにスモークガラスになっている。まさか、大スターがここにいるなんて誰も思っていないだろう。
シーンとする車の中で寧々さんは、ゆっくりと口を開く。

「単刀直入に言うわ。大樹はあたしのものなの」
「ものって……そんな乱暴な言い方はどうかと思います」
負けちゃいけない。気を強く持たなければとの思いが、強気な口調となってしまった。
ふっと鼻で笑われる。
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