シリーズ全UP済。果物のように甘いだけじゃない
仕事が終わったばかりの私は疲れきっていた。
「あの時は別れを決断してくれてありがとう。そのおかげで大樹は不動の地位を手に入れることができて、事務所も安泰なのよ」
「いえ」
「悲しい思いをさせてしまったことは謝るわ。私もあれから恋愛をして結婚をして子供も授かったの。自分が幸せになっていくたびにあなたへの罪悪感が出てきてね。気にはしていたのよ。どこかで幸せになっていてほしいなと願っていたわ」
雨まじりの雪が降ってきて、フロントガラスを濡らしていく。
「宇多寧々さんから色々聞かされるまで、美羽さんと大樹が会っていることは知らなかった。大樹も年齢を重ねたし結婚をすることは賛成なの。ただね、芸能人ってイメージが大切でしょう? だから、有名モデルの寧々さんと結婚となるといい話題づくりになるし賛成しようと思ってたのに。大樹はあなたに会って償いの心が芽生えたのね」
大くんは、私を愛していない。
償いなの……?
「女は過去に愛されていた人に会うと、また愛されたいって思ってしまう生き物なのよね」
優しそうに笑って私を見つめる。
「スキャンダルが出て過去を知られることになったら、大樹もあなたも、美羽さんの家族も辛い思いをすることになるわ。過去よりも明らかにマスコミの情報収集力は上がっている。気をつけたほうがいい。あなたと大樹は交わらないほうが幸せになれるはずよ」
大澤さんと別れて部屋に入った私は、携帯を見つめる。
――大くん、どうして連絡くれないの?