シリーズ全UP済。果物のように甘いだけじゃない
仕事の疲れと精神的に具合悪いせいで重い足取りで自宅のエレベーターに乗った。
家に入ると自動的に玄関の明かりが灯り、視線を落とすと小さな女性物のブーツがあった。リビングが明るくなっている。
慌てて中に入って行くと、美羽がソファーで寝ていた。目尻には涙の跡があった。


――会いに来てくれたんだ。
嬉しくて俺まで泣きそうになる。
愛しいってこういう気持ちなんだ。じっと見つめていると視線に気がついたのか美羽はそっと目を開いた。
「大くん……お帰り」
「ただいま、美羽」
そっと髪を撫でてやると気持ちよさそうな顔をするが、避けるように体を起こすとバッグの中に手を入れて合鍵を見せてきた。
一気に不安な気持ちが膨れ上がって俺の顔は強張ってしまう。
「なに?」
「返そうと思って」
俺から目を逸らしながら鍵を差し出してくる。
「なんで?」
「大くん、無理しなくていいんだよ。過去のことは忘れてしまえばいいの」
「……なにそれ」
「償いとか、そういうのいいよ、もう。大くんのこと恨んでない。大くんと過ごせた日は、果物みたいに甘い日だけじゃなかったけど……いい思い出だったよ」
悲しそうな表情をしながら弱々しい声で言うなんて矛盾している。
「俺が美羽を抱けないから軽蔑したの? だから、朝起きたら姿を消して連絡もくれなかったのか? 俺は、美羽のことが好きだ。美羽のことだけは失いたくない。償い? ふざけんじゃねぇよ」
美羽をぎゅっと抱きしめるとヒックヒックと、呼吸を乱しながら泣き始める。

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