シリーズ全UP済。果物のように甘いだけじゃない


年が明けて私と大くんは実家に挨拶に行くことになった。
別々に行かなきゃいけないのは仕方がない。結婚する前の大くんが女性と車に乗っているところを撮られてしまったら大変なことになる。
電車で向かう私。
大くんの事務所社長が結婚を認めてくれたことには驚いた。寧々さんのお父さんと話し合いをしてくれたらしい。
当初はCOLORの番組起用を減らすと言われたそうだけど、数日後にやっぱりなんか違う気がすると言ってくれたみたいなのだ。

『娘が可愛いが言うことを聞いていられないほどCOLORは成長した。我局だけCOLORを利用しないのはマズイ』と言って考えを改めてくれたみたいだ。
大くんが教えてくれたけど、甘藤とCM契約を切ったのも、宇多サイドの脅しがあってのことだったらしい。今後はまた機会があれば契約をすると言ってくれたみたいだ。

「ただいまー」
玄関を開けると懐かしい匂いがする。
実家に一足早くついていたのは大くんだった。
昼間なのにビールを飲んでいるお父さんと大くんの和気あいあいとした姿が目に入った。

「お帰り美羽」とお父さんに言われ「ただいま」と言ってから大くんを見た。大くんは緊張しているみたいだ。
「座りなさい」
お父さんの言葉に素直に座るとお母さんが私にお茶を出してくれて、大くんの隣に座った。
「紫藤君がここに来た時、事務所社長さんから電話をもらったんだ。過去には色々あったけど、父さんと母さんは美羽が選んだ道を信じるよ。幸せになりなさい」

その言葉が胸に染みて涙が溢れそうになる。
「孫が楽しみだ」との言葉に私は笑顔が引きつらないようにした。大くんも切なそうな顔をしている。でも、今ここで伝えることではないと思って口をつぐんだ。隠すつもりはない。私は……いつか絶対に大くんの赤ちゃんを授かる日が来ると思っている。

「紫藤君のご両親にも挨拶に行かないとな」
「いえ、両親と兄は亡くなっているんです」
「そうだったのか」
「はい。ずっと孤独だった心を美羽さんが救ってくれたんです。美羽さんに出会っていなければ今の自分はないと思います。過去に悲しい思いをさせてしまいましたが、未来は幸せに溢れた時間にしていきます」
大くんはそこまで言い終えると床に正座をした。
「結婚させてください」
真剣な眼差しで言うと、両親に頭を下げてくれた。
お父さんは凛々しい声で「よろしくお願いします」と言ってくれ、お母さんは涙ぐんでいた。
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