シリーズ全UP済。果物のように甘いだけじゃない
仕事を終えると、半個室がある居酒屋に直行した。
私の前に座っている杉野マネージャーと千奈津。重ぐるしい空気で包み込まれているような気がする。

「話ってなに?」
「今まで黙っていてごめんなさい。……私、過去に紫藤大樹さんとお付き合いしてたことがあります」
笑顔が消えた千奈津。

杉野マネージャーは、やっぱりかという顔をしている。
「驚かせてごめんなさい」
「じゃあ、子供を堕ろしたって噂も本当なの?」
私は頭を必死で横に振る。

「出産は事務所の人に反対されていたけれど、私は何があっても産む決意でいたの。たとえ、彼と一緒になることができなくても……」

赤ちゃんを失った時の悲しみは。忘れることができなかった。
最近はあまり夢でうなされることはないけど、あの日のことを思い出すと胃がキリキリと痛んで涙が溢れそうになる。
千奈津は女性として悲しみをわかってくれた表情をしていた。
< 141 / 291 >

この作品をシェア

pagetop