シリーズ全UP済。果物のように甘いだけじゃない

続編 1 小さな嘘と遠慮

春らしい優しい光が差し込んでいる部屋。窓から見える空は程よく白い雲が浮いている。
私は押し花しおりが置かれている『はな』のお供えコーナーに手を合わせていた。
大くんの家に住むようになってから、お供えコーナーを作ってくれた。
生まれて来ることは出来なかったけど、お腹の中で生きていた事実は消えないし、いつまでも忘れたくない。
「今日も、パパがお仕事を無事で安全に、精一杯頑張ってこられますように」
「ありがとう、美羽」
後ろから愛しい大くんの声が聞こえて、赤面してしまう。聞かれてしまった。
心の声をつい口に出してしまった。あぁ、恥ずかしい。
隣に座って大くんも手を合わせた。
「今日もママが元気に暮らせますように」
優しい言葉。同じ言葉でも大くんが発すると柔らかくなる気がした。耳に言葉が届くたびに胸が温かくなる。
この人を好きになって良かったと、いつも思っているのだ。
正座したまま見つめ合う。
「おはよう、美羽」
「おはよう、大くん」
日常の挨拶を面と向かって言えることがこんなにも幸せなんだと知らなかった。好きな人と過ごす時間は、キラキラ輝く気がする。
大くんは、私の手をすっと取った。
そして、左手の薬指を擦る。
「…………美羽。指輪つけてって言ってるだろ。どうしてつけてくれないのかな」
ちょっとだけ、ふくれた大くん。
クリスマスにプロポーズしてくれた時に、買ってくれたダイヤのリングだが、どこかに落としてしまいそうでつけられずにいた。大事に大事に保存している。
「だって、あんな高価な物……怖いし……」
「リングをつけてくれなきゃ、俺の女だって証明出来ないでしょ。他の男に取られたら困るんだって」
そんなに心配することないのに。私は面白くてくすっと笑ってしまう。
「ないない。私を好きになってくれる人なんて、大くんしかいないよ」
大くんはむっとして私を引き寄せる。
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