シリーズ全UP済。果物のように甘いだけじゃない

だから結婚するまでは大くんの婚約者なのは大っぴらにはしないことにした。私が仕事に集中できるようにと、大澤社長が気を使ってくれたのだ。数人のスタッフさんと、一緒に働く芽衣子さんには、伝えてあるらしいけれど。
会計の仕事で、データ入力を中心にやっている。ゴールデンウィークを終えてから働き始めて三週間。環境にも慣れてきた。
芽衣子さんは新卒の頃からいるらしく長いらしい。合わせて五人でこの業務を行っている。
時間もそんなに長くないし、皆さん優しいし感謝しながら働いていた。
「お疲れ様」と入ってきたのはマネージメント部マネージャーの市川さん。スーツをお洒落に着こなしている。タレントにも劣らないルックスで優しい大人男性だ。
出張したり、接待をしたりすることが多いため、経費の申請に頻繁に来ていて顔見知りになった。
「美羽ちゃん、お疲れ様」
「市川さんお疲れ様です」
笑顔を向けて挨拶し合う。
「どう、慣れた?」
「はい。皆さん親切にしてくださるので」
「あまり無理しないで、頑張れよ」
ハキハキした口調で話して、ポンポンと肩を叩いて出て行く。
下の名前で呼ぶのは、ここの社風らしい。偉い人は苗字で呼ぶこともあるけどね。私と市川さんが特別な関係だからと言うわけではない。
市川さんが去って行くと静になる。パソコンを操作する音が鳴っていた。部署に残っているのは、私と芽衣子さんの二人きり。
「市川さんってカッコイイよねー。元モデルだっただけある」
芽衣子さんがポツリと呟く。
「モデルだったんですか?」
「そう。でも、裏方の方が向いてると言って今の仕事をしてるのよ」
「そうなんですか」
「でも……どうしてあのルックスで結婚しないのかな。もう三十五歳なのに」
……そうだったんだ。独身なんだ。
「あの容姿だとモテすぎて困っているんじゃないですか?」
「イケメンだと結婚するのに選びすぎるのかな。……まあ紫藤さんみたいな人もいるけどね」
意味ありげな笑みを浮かべた芽衣子さん。恥ずかしくなって目を逸らした。
芽衣子さんは付き合ってる人はいるのかな。……普通に考えているか。すごく美人だし性格もいいし。
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