シリーズ全UP済。果物のように甘いだけじゃない

「あー……美羽ちゃん。大樹に借りた服あるんだけど……忘れそうだから渡してもいい?」
かったるそうに首を回して質問された。
一緒に住んでいることは秘密にしているのに。周りの社員さんが不思議そうな顔をする。それを察した芽衣子さんは「事務所に来るかもしれないしね」と誤魔化してくれた。
「そう。じゃあマネージャーに届けさせるわ」
後ろの首に手を当てつつ黒柳さんは帰って行く。
あーハラハラした。まあ、バレてもいいけれど……なんとなく知られたくない気持ちのほうが強い。いまだに不釣合いなんじゃないかと思ってしまう。
事務所の人だってなんでこの子なのって思われるかもしれない。
どう思われたとしても気にしちゃいけないんだけどね。
仕事が終了時間になって、芽衣子さんが「お疲れ様」と声をかけてくれた。
「失礼します」
帰る準備をして部署を出ると、エレベーターホールに市川さんが立っていた。
「お疲れ様です」
「あ、」
そう言って手が伸びてきたからびっくりして身を縮こませた。
「驚かせてごめん。髪の毛にこれ、ついてたからさ」
「ほら」
笑って見せてくれた。
親指と人差し指で摘んでいたのは、紙切れ。さっき書類整理した時についてしまったのかもしれない。
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