シリーズ全UP済。果物のように甘いだけじゃない
「あー……すみませんっ。ありがとうございます。私ってアラサーなのになんだか抜けているところがあるんですよ……。本当に、すみません」
上から見下ろされると恥ずかしくなってしまう。そんなに見つめないでほしい。優しい視線にドキドキしてしまう。……早くエレベーター来てよ。
「ごめんね、髪の毛乱れちゃったな……直してあげよう」
そう言って私の髪の毛を撫でた。
大くん以外の人に触られるなんてありえないっ。
動揺して声も出せずにいると、エレベーターのドアが開いて人が降りてきた。
視線を動かすと大くんが立っていた!
「……大くんっ……」
小さな声で呟いたのに、市川さんには聞こえてしまったらしい。
「へぇ、大くんって呼んでるんだ」
意味ありげな笑みを浮かべられた。
大くんはエレベーターの前で立ち止まっている。
「お疲れ様です。市川さん」
無理やり笑顔を作っているように見えた。
髪の毛を触られたの……見られちゃったかな。
市川さんは偉い人だから、大くんと私の関係は知っているはず。だから、変な意味で触れてきたんじゃなくて、本当に親切心だったと思う。市川さんはいい人だし。
「お疲れ様、大樹。次の予定は大丈夫なのか? 可愛い婚約者が心配でついつい事務所に寄ってしまったとか?」
「いえ、打ち合わせがあったので」
顔色を変えないで話している大くんは、私に笑顔を向けてきた。
「今日は魚が食べたいな。美羽」
「あ、うん」
突然プライベートな話になったから驚いた。しかも、市川さんがいるのに。
「では、失礼します」
「お疲れ様。また明日ね、美羽ちゃん」
大くんは私と市川さんのやりとりを黙って見ていた。
「大くん、頑張ってね」
「ああ」
何気ない挨拶をして私は退社をした。