シリーズ全UP済。果物のように甘いだけじゃない
戻ってきたと思ったら寝室で腹筋を始めた。
あまり、話しかけない方がいいかなと思って、リビングで大人しく待っていた。
しばらくしてちらっと様子を見ると、トレーニングを終えた大くんはベッドにうつ伏せになっている。
遠慮しようかと思ったけど、大くんともう少しだけ話をしたいと思って近づいてみた。
「起きてる?」
「うん……」
「あ、じゃあ、マッサージしてあげようか」
「……お願いしようかな」
大くんの背中に乗って肩から揉んであげる。
体が楽になればいいなと思いながら、気持ちを込めてマッサージをしていく。
なんか、無言なのは気まずくて話題を探す。
「市川さんってカッコイイのに、結婚しないんだね」
「…………」
「優しいし、仕事も出来るし」
「………………」
「過去に悲しい恋愛とかしたのかな」
「そんなに気になるのか」
お腹の底から出しているような低い声に驚いて、マッサージする手を思わず止めてしまった。
「おい、美羽」
「……まさか、何言ってんの」
「市川さんがいいなら、婚約破棄すればいいだろっ」
いきなり体を乱暴に起こすから、私はバランスを崩して倒れた。
「大くん、危ないよ」
顔を見ると不機嫌そのもの。
ベッドの上で胡座をかいて、膝に肘をついて顔を支えている。人差し指で頬をトントントンと叩いていて、イライラを必死で抑えているように感じた。
「あーもう」
そして、頭をぐしゃぐしゃと両手で乱し大きなため息をついた。
「……大くん」
「いいか。俺はだな、美羽が他の男に触られたりするのが一番嫌なの」
きょとんとする私。大くん以外の男の人に触られたりしてないけど。うーん。考えてみるけど思いつかない。
「もしかして、自覚ないのか?」
「……ごめん。大くん以外に触られたりした記憶がない」
「もっと危険じゃん……」
大くんは、私の手を取ってぎゅっと体を引き寄せた。
大好きな大くんの香りに包まれて安堵する。やっぱり、一日一回はこうやって抱きしめてもらいたい。
結婚してもこれは続けて欲しいと思う。
「大くぅん……」
胸に顔をつけて大くんの香りをくんくんと嗅ぐ。あー、たまらない。犬が飼い主さんの匂いを嗅ぎたがる気持ちが痛いほど、わかる。
「汗、臭いんじゃない? 俺、運動したばかりだし」
「いいの。全部含めて大くんだし」
「もう、まったく」
更にぎゅっと抱きしめられる。
「美羽。お願いだから、市川さんといちゃいちゃするなよ」
「……市川さん?」
エレベーターの前で大くんに会った時、市川さんは髪の毛についたゴミを取ってくれて髪の毛を直してくれたんだった。
あれを見て大くんは怒って、不機嫌だったのか。
「市川さんってすげー男前だろ? 俺なんて勝負出来るような人じゃないんだ。美羽、最近、市川さんの話ばかりだから不安になって……押しつぶされそうだった。しかも、髪の毛まで触らせて。俺の美羽なのに」
独占欲むき出しの大くんにキュンキュンしてしまう私って……。
でも、愛しているからこそ独占欲が湧いてくるんだよね。すごく分かる。
「大くん。私だっていつも不安なんだよ。テレビで綺麗なタレントさんと楽しそうに話しているだけでも嫉妬する。……しかも今日なんて社交ダンスだよ」
「あ……、あれオンエアー今日だったのか」
苦笑いをしている。
「美羽も嫉妬してくれてるんだな。なんか、安心した。……でも、美羽は俺のだって言うことを忘れないこと。市川さんが優しくてもなびかないこと。いい?」
「うん」
「ごめんな。つまらないことで怒って。お詫びに美羽を綺麗に洗ってあげる」
「どういうこと?」
「風呂、入ろう」
「えーっ。いいよ。大くんお先にどうぞ」
「ダメ。俺と一緒に入るんだ。おいで」
ついつい私は従ってしまうのだった。