シリーズ全UP済。果物のように甘いだけじゃない
美羽side

「大くんは……怒っていましたか?」
「俺が美羽ちゃんを誘惑したと思ってるみたいだぞ。お前らのゴタゴタのせいで巻き込まれた俺の気になってみろって。ったく。弁解してくれよ」
缶ビールがカランと転がる。
赤坂さんはお酒が強い。まるで水のように飲んでいる。そして、タバコを吸いまくっていた。
「大くんは……赤坂さんの好きな人の話、知っていますか?」
「言ってない。言ったらあいつら、俺らも金出すって言いそうじゃん」
確かに言うだろう。
「でも、まあ……今はアメリカに行ったし教えてやってもいいかな。機会があれば美羽ちゃん言っといて」
会話をしていると、激しくチャイムが鳴った。
くすっと笑った赤坂さんは気怠そうに立ち上がって「お迎えが来たぞ」と言ってオートロックを解除する。
そのまま玄関の鍵を開けて戻ってきた。
面倒さそうにソファーに座る。
すると、チャイムが再び鳴って玄関のドアが開いたと思うと、大くんが入ってきた。
「おい、てめぇ!」
怒鳴りながら一直線に赤坂さんの元へ行き、胸ぐらを掴んだ。
私は慌てて大くんを掴む。
「ちょっと、やめてよ!」
胸ぐらを掴まれていても赤坂さんは余裕たっぷりで笑っている。
「愛する女を不安にさせているくせに、偉そうなことしてんじゃねーよ」
「なっ」
ばっと手を離した大くん。
悔しそうに唇を噛んだ。
「大くん、ごめんね。突然いなくなって心配させたよね」
「心配するに決まってるだろ!」
涙目の大くんを見て私も泣きそうになる。
「携帯も置いてきちゃって」
「……美羽に何かあったらと思うと、不安でたまらなかったんだぞ」
「ごめんね」
私が頭を冷やそうと外を歩いていると赤坂さんに会って、話を聞いてくれた経緯を話した。すると、大くんは理解したのか怒りが顔から消えていく。
はぁと盛大なため息をつく赤坂さん。
「続きは帰ってからにしてくれない? 俺そろそろ眠いんだけど」
「ですよね。赤坂さんありがとうございました」
ふっと鼻で笑う赤坂さん。
「好きな人……戻ってきたら会わせてくださいね」
「ああ」
大くんは赤坂さんに「悪かったな」と言って私の手を引いてマンションを出て行った。

車に乗るとシーンと沈黙が流れた。しばらく車を走らせる。
何から話せばいいのか、わからない。
手に汗をかいてぎゅっと握った。
大くんは人があまり歩いてない路地に車を停めた。
「どうして俺のこと信じてくれないんだって思ってたけど、普通に考えて元カノと会ってたなんて嫌だよな。……ごめん」
大くんは反省したような声を出した。
「俺は友達としか思っていなくても相手の気持ちはわからないもんな。もう、二人きりでは会わないから」
「……心が狭くてごめんね」
「いや、美羽は悪くない」
そっと手を握られた。
「でも、仕事の関係で女性と二人きりで会うこともあるけど、それは許してな」
「うん」
「美羽に会わせたいと思ってる。過去に付き合った男が結婚となると何か嫌なんだろうな」
苦笑いしている大くん。
元カノさんは、大くんとどんな付き合いをして別れたのかわからないけど、大くんみたいな素敵な人を忘れるのは大変なことだ。私もそうだったから。
「わかった。会わせて」
「嫌な思いさせて悪いな……」
首を横に振る。
大くんは私の頬に手を触れさせる。親指で頬を撫でられてそのままキスをされた。おでこをくっつけたまま「俺が一番大事なのは美羽だけだから。一生、離れないでくれよ」と言われた。その言葉が嬉しくて目に涙が浮かんでくる。
もっと大人にならなきゃ。
私はもうアラサーなのに、大くんとしか付き合ったことがなくて……。
だから、大したことじゃなくても一喜一憂してしまう。こんな自分を変えたい。
愛してくれる大くんに申し訳ないと思う。
「大くん。私もっと余裕ある女性になるね」
「美羽はそのままでいいよ」
「ちょっとだけ、ドライブすっか」
久しぶりにデートらしいデートをしている気がする。流れる景色を共有しながら会話をする何気ないこの時が幸せだ。
「ところで……赤坂の好きな人って?」
「うん……実はね、心臓が悪い女の子らしいの。今は移植するためにアメリカにいるみたい」
「だからあいつ……仕事入れまくってたんだな……。海外で移植するのってかなり金がいるんだって。赤坂、一人で出したのかな。言ってくれれば協力したのに。あいつらしいな」
「うん。側にいたいのに切ないだろうね」
「ああ。俺らはこうやってすぐに触れられる距離にいることに感謝しないとな」
好きな人と同じ空気を吸えていることが当たり前だと思っちゃいけない。
それを教えてくれた赤坂さんに感謝しないとね。
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