シリーズ全UP済。果物のように甘いだけじゃない

続編 4 相思相愛

「だって。大樹があまりにも有名になるから……忘れられなかったの」
視線を落とし泣きそうな顔の紗代さん。ハキハキ話すタイプの女性で予想以上に美人だった。胸が大きくてスタイルがいい。
大くんは本当に私のような小さな胸の女でいいのだろうか。
「大樹と会えなくなるなんて嫌なの!」
外で会うと雑誌に万が一撮られたらややこしいことになるからと、家に来てもらったのだけど、やはり話はこじれてしまう。
「……紗代、お前だって結婚するんだろ?」
コクリと頷く。
え……幸せな時なんじゃないの?
それってマリッジブルーなんじゃなくて?
絶対マリッジブルーでしょ。
「お互いに、幸せになろう」
「…………大樹には、どんな男性も勝てないよ」
女って複雑な生き物だ。
紗代さんは結婚する立場でありながら、大くんとも繋がっていたかったのかもしれない。
二人が話を始めてもうすぐ一時間。
状況が変わらないことにイライラした私は、思わず口を開いた。
「紗代さんと大くんは過去に付き合っていて、それからも二人は友達関係だったのはわかりますが……。今はもう、私の結婚相手なんです。二人きりで会うのは勘弁してください」
冷静な口調で言うと、紗代さんは私を睨んだ。
迫力満点で思わずびっくりしてしまう。
「……大樹を手に入れて満足そうね。大人しそうな顔をして偉そうなこと言わないで!」
「おい、紗代」
「わかったわよ。大樹が私に未練がないって理解したし。もう二人きりで会わないから」
ふてくされた様子で口を尖らせた紗代さん。
結婚するのに大くんとチャンスがあれば……と、思っていたところがすごいと思う。
それほど大くんは素敵な人なのかもしれない。
しばらくしてイライラが収まったようで……。
「美羽さん、言い過ぎてごめんなさい。別れた原因は、私が大樹を信じられなくて……。フッてしまったことだったから。でも、嫌いだったわけじゃないの。好きだったから……。好きすぎてしまったから。別れて後悔してたの」
大くんがフラれたんだ。意外だった。
そんな場面、想像できなかった。
「冷静になれば……。今、私は大樹を友達としか思ってないし。私は婚約者を愛しているのに。バカだね。幸せになってね。……帰るね」
「ああ、紗代も旦那さんと幸せになるんだぞ」
「ありがとう」
立ち上がった紗代さんは、言いたいことを言ってスッキリした表情だった。
「お邪魔しました」と言って頭を下げて玄関に向かっていく。
玄関まで見送って行く大くんの後ろ姿を見ていた。

緊張していた私は力が抜ける。
ソファーにうなだれたように座りクッションを抱きしめた。
あー……緊張した。
しばらくして戻ってきた大くん。
「フラれたんだね、大くん」
「まあ……な」
「そんな話、初めて聞いたよ。もしかして、まだ未練が残ってるんじゃないの?」
「まさか。美羽に出会ってからは美羽しか目に入らなかったよ」
私の隣に座る大くん。肩が触れ合って体温が伝わってくる。
大くんが戻ってきたことに安心していた。
「でも、大くん……紗代さんの香水の匂いさせてた」
「あれは、あいつが酔っ払って歩けなくなって、抱えてタクシーに乗せたからだよ。断じて怪しまれるような関係ではない」
真面目な顔で言うから、信じることにしよう。
いちいち疑っていたら身がもたないし。
「きっと紗代さんマリッジブルーなんだよ。この人と結婚して大丈夫なのかなって不安になったんじゃないかな」
大くんに顔を覗き込まれる。
「美羽も?」
「えっ?」
「マリッジブルー? 俺と結婚していいのかって不安になってない?」
結婚に限らず新しい生活になると思うと、不安になるのは当たり前だと思う。
でも、私は今のところ大くんと結婚する実感が湧かない。
「正直言って、まだ結婚するんだって……思えなくて」
「そうなのか?」
「うん……」
大くんは考えこむ表情を見せた。
傷つくようなことを言ってしまっただろうか。
「変な意味じゃないの」
「わかってるよ。大丈夫」
「だんだんと実感してくると思うよ」
「ああ」
大くんはそれでも何か、考えているような表情を見せていた。
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