シリーズ全UP済。果物のように甘いだけじゃない


十月になると、引っ越しの準備を始めた。
新居も見つかり今月の半ばには、この家を出ていこうと思っている。
4LDKで少し広めの家に移ることにしたのだ。
パートを終えて夕食を作り終えると、物を整理する。
夜になりチャイムが鳴った。玄関まで行くと、寧々さんが立っていた。
「そろそろ引っ越ししちゃうんでしょ? これ、差し入れ」
差し出してくれたのはケーキの箱。
「で、ついでに夜ご飯ご馳走してよ」
「あ、どうぞ」
遠慮しないでズカズカ入ってくるところが寧々さんらしい。
はじめはびっくりしたけど、今は、可愛いなぁーなんて思ってしまう。
食卓テーブルについた寧々さんに夕食を出した。
今日は、ピラフとロールキャベツ。蒸鶏のサラダだった。
私は目の前に座って少しだけ摘んでいる。大くんが帰って来たら二人で食べようと思って。
「料理の腕、上げたじゃん」
「ありがとうございます」
「偉いよねー。ほんとに。見習わないとなぁー」
ニコッと笑った寧々さん。
「実はさ、彼氏出来たの」
「おめでとうございます!」
「イケメンIT社長でね、年収は億行ってるらしい」
さすが、寧々さんの選ぶ男性は飛び抜けている……。
満足そうに頷いた寧々さんは、優しい顔つきになった。
「すごい苦労人でね。とにかく優しい人なの」
「そうなんですね」
「私、彼と出会えて良かったと思ってる。人に対する思いやりとか、教えてもらえた気がして。今度、紹介するね」
「はい。ぜひ」
寧々さんに春が訪れて本当に良かった。私まで幸せな気持ちになった。
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