シリーズ全UP済。果物のように甘いだけじゃない



引っ越しも無事に終えて、一段落ついた頃。

十一月三日。

仕事を終えた大くんと私は役所に向かっていた。
車を運転してくれているのは、池村マネージャー。
ついに今日、婚姻届を提出する。休みを取ってくれた大くん。
この記念すべきところを池村さんが、ビデオ撮影してくれることになった。
役所に届けを提出し終えると、池村さんは「おめでとうございます」と言って笑顔をくれた。
「ブログでお知らせしてくださいね」
「了解」
「では、これ以上邪魔すると悪いので失礼いたします」
頭を下げて去って行く池村さん。私達は見えなくなるまで見送った。


――私と大くんは……夫婦になった。


車に乗ると妙な気持ちになる。
「大くん……よろしくお願いします」
「こちらこそ。よろしくお願いします」
にっこり笑った大くんは、手をきゅっと掴んだ。
「じゃあ、ランチでも行こうか」
「う、うん……」
「どうした?」
ランチを食べる前に、はっきりしておきたいことがあった。
実は数日前から体調が良くない。
もしかしたらかもしれないけれど、授かっているかもしれない。
「病院に行きたいの」
「え? 具合悪いのか?」
「……いや。あのね……生理が遅れていて」
「マジ?」
大くんは笑顔を作りそうになったが、抑えた。まだ、はっきりわからないから我慢したのだろう。
「わかった。病院まず行こうか」

大学病院の産婦人科に連れて来てくれた大くん。
やはり、彼は目立つ存在のようですぐにざわざわしはじめてしまった。
気を使ってくれた院内のスタッフさんは目立たないところで待機させてくれる。
検査結果を待っている間ずっと手を握ってくれていた。
私は、はなのことを思い出していた。
――はな。もしかしたらあなたはお姉ちゃんになるかもしれないよ。
目を閉じると涙が溢れてきた。
大くんはそっと手で拭ってくれる。
「紫藤さんどうぞ」
ナースに呼ばれて立ち上がったのは、大くんだけ。
そうだった。
私も紫藤になったんだった。
紫藤美羽になったのだ。
診察室に行って女医さんの方に向かって座った私と、大くん。
「妊娠されています」
にっこりと微笑んで伝えてくれた。
私と大くんの赤ちゃんが宿ったのだ。
相思相愛である私と大くんの宝の存在。
今度こそはしっかりと、産んであげるからね……絶対に。
「あ、ありがとうございます」
大くんは興奮しているようで女医さんの手を握った。
「いえ、私は何も……」
冷静に対処している女医さん。

病院を出て車に乗ると大くんは、私をぎゅっと抱きしめる。
「嬉しい。嬉しいよ、美羽」
「私も!」
「帰ったら、はなに報告しような」
「うん」

色んな気持ちが……込み上げてくる。
今の二人がこうしていられるのは、色んな人のおかげだと思う。
これからも、感謝を忘れずに大くんと素敵な家庭を作って行きたい。

                              

                             続編:終
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