シリーズ全UP済。果物のように甘いだけじゃない

椅子席の個室に男女が三人ずつ集まっていた。和食が並び料理はとても美味しいが、合コンなんて慣れていないから緊張してしまう。
私の隣に座ったのは、同じ年の男性で印象の良い人。
弁護士ってお固いイメージがあったけれど、くだけて楽しそうに飲んでいた。
「へぇー芸能関係の事務員なんだ? 芸能人に誘われたりしないの?」
「まさか。綺麗なタレントさんや女優さんがいっぱいいるので、私なんて相手にされませんよ」
実際にあまり声をかけてもらったことはない。
そう考えると、明人は特別だったのかな。
「芽衣子さん、綺麗ですよ。普段、合コンなんて来ないのですが。今日は芽衣子さんに出会えたから参加出来て良かった」
「ありがとうございます」
仕事も安定しているし素敵な人だし、人当たりもいい。きっとこういう人なら両親も安心してくれるだろうな。
「連絡先、交換していただけませんか?」
「はい」
「今度は二人でデートしましょう」
「……あはは」
ぐいぐい来られるとまだ抵抗がある。
男イコール明人だったから。今まで植え付けられたものはなかなか拭えない。
「イタリアンで美味しいところ知ってるんですよ」
「素敵ですね」
もしも、明人とイタリアンに行ったらどれほど楽しいのだろうか。いちいち思い出してしまう自分に嫌気がさす。
合コンを終えて家に帰ると彼からメールが届いた。
『本当に楽しかったです。また、会いたい』
でも、まったくときめかない。
初めからときめくような恋なんてないかもしれないけど、それ以前の問題だと思う。
明人を忘れるために婚活をしているから……ダメなんだ。
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