シリーズ全UP済。果物のように甘いだけじゃない
明人side

大きな仕事が決まった時、美味しい物を食べた時、笑える話があった時、泣きたい時、一番初めに伝えたくなるのは、芽衣子だ。
今日、俺は新しい仕事が決まった。嬉しくて、メールをしようと思ったけれど拒否されている。
電話だって繋がらない。
合鍵も返してしまった。
番組収録をするため畳の楽屋にいる俺は溜息をついて、机に伏せた。
……早く、機嫌直してくれないかな。
芽衣子に触れたい。俺は芽衣子のことが大好きだ。
本当に好きなのになぁ……どうして、仲良く出来ないのだろうか。
相当、イライラしていたけど、何かしたかな。
付き合い出して五年。週刊誌に撮られてしまうのを懸念して、外に一緒にでかけたことはほとんどない。
そういうのが積もりに積もりイライラが爆発してしまったのだろうか……。大事にしていたつもりなんだけどな。
コンコンとドアのノックが鳴った。
「はい」
「黒柳さん、スタンバイよろしくお願いします」
「はーい」
気持ちを切り替えないとな。よし、頑張るか……。

仕事を終えて帰宅したが、気分が優れない。芽衣子に会えないだけなのにこんなにも調子が狂うなんて思わなかった。
大きな仕事が決まったのだが、海外の有名なアニメ映画の吹き替えをすることになった。
大ヒット間違いない映画だ。仕事も増えるだろうな。
しかも主人公をやらせてもらえるんだから、たまらなく嬉しい。
こんな日は美味いものを食べながら、芽衣子と一緒に喜びたい。
芽衣子も自分のことのように喜んでくれるだろうな。
芽衣子に出会えて好きな人と楽しみを共有する幸せを知った。
俺は、芽衣子に出会ってなかったら、とんでもない勘違い野郎だったかもしれない。
俺との関係を人に言うなと伝えたのも、芽衣子が大事すぎるからだ。
第三者の手によって壊されるなんて、たまったもんじゃない。
「芽衣子…………」
ソファーに座って目を閉じる。
結婚か。
考えなかったわけではない。
俺は一生、芽衣子といると思っていた。
どうして急に怒りはじめたのだろうか。
考えていても時間が過ぎて行くだけだから、まずは風呂に入るか。ゆっくり立ち上がってバスルームに向かう。
風呂に入ってぼーっと考える。
――今まで、ありがとう……なんて言われた。
まるでお別れの挨拶のようだった。ありえないよな。俺と芽衣子は愛し合ってんだもの。

ベッドに入ると、芽衣子の肌を思い出す。
胸のあたりがざわついて、妙な気持ちになる。
早く仲直りしたい。芽衣子に会いたい。

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