シリーズ全UP済。果物のように甘いだけじゃない

会いたい気持ちが溢れ出し事務所に行くことにした。
少しだけ時間があるから、芽衣子のショールに包まれて眠りたい。
しかしだ。
事務所に行っても芽衣子は目も合わせてくれない。
そして、ショールもかけてくれない。
――冷たい。
そう思いつつ目を閉じていると、若い社員が芽衣子に話しかけた。
「先輩、合コン行ったんですよね? どうでした?」
は?
芽衣子……合コン行ったのか?
まじかよ。かなりショックなんだけど……。
なんで、俺から離れていこうとするのだろう。
「声かけてくれた人がいてね。いい人だったかな」
「デートの約束したんですか?」
「あー……うん。お誘いしてくれたけどね」
「職業は?」
「弁護士なの」
「いいな。じゃあ結婚も間近ですね! 美羽さんも、芽衣子さんも結婚かぁ」
まんざらでもない様子。
芽衣子は本気で俺と別れて、違う男と結婚しようと思ってるのだろうか?
「合コンで知り合って結婚したってうまくいくわけないじゃん」と思わず声に出してしまう。芽衣子はキーボードを打つ手を止めた。
「合コンなんて、いい部分しか見せないだろうし。たった一回会っただけでその気になるなんて逆に怪しい。弁護士なんて口がうまいに決まってる」
「言われてみれば……そうかもしれないですね」
若い社員が納得したように頷く。
「……ありえないね」と言って鼻でふんっと笑ってやる。
芽衣子は俺のことが好きなんだ。一時の迷いだろ。そう、信じたい。
「黒柳さんみたいに出会いがたくさんあるわけじゃないので」
イラッとして静かな声で言い返す芽衣子。
「俺だってべつに……」
言い返そうと思ったが、周りの社員に怪しまれるから我慢した。そして、何くわぬ顔で出て行く。
芽衣子。
どうして、俺から離れていこうとするんだろうか。
エレベーターホールを力なく歩いていた。こんなメンタルで仕事をするなんて辛すぎるんだけど。
男性マネージャーが俺を見つけて追いかけてきた。
「黒柳さん、探しましたよ。ったく、どこへ行ってたんですか……。早く行きましょう」
「ごめん」
次は雑誌のインタビューだ。
何を聞かれても芽衣子と関連づけてしまいそうで不安だった。
< 218 / 291 >

この作品をシェア

pagetop