シリーズ全UP済。果物のように甘いだけじゃない

その夜。
俺は赤坂の家に押しかけた。
手にはハンバーガー十個入った袋をぶら下げて。
タバコを吸っている赤坂の目の前に座る。
「相変わらず、汚い部屋だな」
「あ? 俺の勝手だろーが」
「食う?」
「サンキュー……って、その量を二人で食べるつもりか?」
テーブルにハンバーガーをどんどん置くと目を丸くされた。
「やけ食いか。明人がやけ食いする時は何かあったってことだもんな」
見透かされて少し恥ずかしい。付き合いが長いと分かるのだろうな。
無視をしてハンバーガーにかぶりつく。
「そんなに食うと体重増えるぞ」
「…………」
「で、どーしたんだよ?」
くすっと笑った赤坂。
コイツは俺様キャラだけど、優しいところがあって話しやすい。大樹は大樹で優しいのだが、今日は赤坂に話を聞いてもらいたかった。
「芽衣子に浮気された」
「へー。あの大真面目な芽衣子さんが?」
赤坂は疑っているようだ。
「合コンに行かれたんだ……。ありえない」
「何か思うところがあったんじゃねぇーの?」
「ま、実はさ……」
俺は芽衣子との間にあったことをひと通り話した。
「……それ、浮気じゃないだろ」
「え?」
「芽衣子さんは、明人と別れたつもりでいると思うけど」
ただの喧嘩じゃなかったってこと?
芽衣子はもう、俺の芽衣子じゃないのか?
ふざけているのかと思ったけれど、真剣な様子を思い出し、そうなのかと納得する。
「どうしよう」
「年齢だって年頃なんだし、結婚したいのは当たり前だろ?」
「……まあ。でも、大樹に続いて結婚なんて普通は無理だろ。俺と赤坂が大樹の恋愛を過去に邪魔したから、今回は祝福してやりたいんだ……」
「たしかにタイミングはある。祝福してやろーぜ」
「ああ」
「でも、それと芽衣子さんを安心させてやれないのは、明人に問題がある」
ごもっとも。
正しいことを言われてどんどん落ち込んでしまう。
「でも、まぁ……他の女にも目を向けてみたらどーだ?」
「無理」
「なんで地味な事務員なんかがいいわけ?」
「ビビッと来たからだよ!」
ふんっと鼻で笑って「バカだな」って言われた。しばらく無言でハンバーガーを食べながら、芽衣子とのはじまりを思い出していた。
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