シリーズ全UP済。果物のように甘いだけじゃない

俺が芽衣子に惚れたのは、何気ない行動に胸を打たれたからだ。
会社の飲み会で酔い潰れた俺。
他の人は俺が転がっていても無視だったのに、芽衣子は俺を介抱してくれた。
トイレで吐く俺の背中を擦ってくれて「大丈夫ですか?」と近くで見守ってくれていた。
そんな状態で帰れない俺とタクシーに一緒に乗った芽衣子。
今日は、コイツを抱きたいと思った。
優しくてしっかりしている芽衣子にキュンとした俺、当時二十四歳。
やりたい盛りの俺は酔って記憶が無いふりをした。
家がわからないからと芽衣子の家に泊めてくれることになり、俺はベッドで眠ったふりをした。
しばらくして部屋着に着替えた芽衣子。薄めを開けてみると、俺を心配そうに覗きこんでいて……たまらない気持ちになった。
当時は、道を歩けば女を抱けるってほど人気があったから、美人な女をやりたい放題していた。
芽衣子は綺麗だけど、超一般人。
二十七歳だった彼女には、今まで付き合った男がいないとの噂もあって、絶対にやってみたかった。
腕をぐっと引っ張って俺の胸に抱き寄せると『起きてたんですか?』と言って逃げようとする。
更に強く抱きしめると『……嫌っ』と震える声で泣きだした。
俺を拒否る女は初めてだった。俺は、一気に興奮してしまい、酔いはすっかり覚めていた。
『芽衣子さん、抱かせて』
『あ、頭おかしいんじゃないですか!』
暴れる芽衣子をベッドに寝かせて、手首を押さえ込み、唇を割って舌を挿入させた。
足をばたつかせるからズボンを脱がせて、ショーツも剥ぎ取る。
太腿を思い切り開いて間に入った俺は、体を密着させて、芽衣子の胸を舐めた。
石鹸の香りが鼻を抜ける。
『男が家にいるのに優雅にシャワー浴びてたんですか?』
くすくす笑いながら言うと、芽衣子は涙をポロッと零した。
『信じてたから……』
『残念ですね。俺、見かけによらず、がっつくタイプなんですよ』
そのまま強引に芽衣子のバージンを奪った。
本当に処女だったことに俺は驚いていた。
芽衣子はずっと、ずっと、泣いていた。
朝まで一緒にいたが、眠ることなく泣き続けていて、とんでもない顔をしていた。
それなのに、芽衣子は俺に朝ご飯を出してくれたんだよな。
すっごく美味かった。
『どうして……飯まで』
『うちの大事なアーティストだから……。私は、あの会社が好きだし、続けたい。こんなことがあっても』
うつむいて卵焼きを摘んだ芽衣子が、すごく綺麗で守りたいと思った。
顔を上げて俺をじっと睨むと、芽衣子は諭すように言った。
『もう、女性を傷つけるのは私で最後にしてください。黒柳さんは、自由に女性を抱けるかもしれません。軽い気持ちで女性を抱かないでください。心からあなたを愛している人もいるかもしれないので……』
その後、数日間まともに食事が喉を通らなかった。
ふとした瞬間に芽衣子を思い出して会いたくなった。
いつも通り女は寄ってきたけれど、抱く気にはならなかった。
数日後、芽衣子の働く事務室へ行ってみると、真剣な表情で仕事をしていた。
一生懸命頑張っている姿に再び心臓が激しく動き出した。
俺に気がついた芽衣子は驚いた顔をして「お疲れ様です」と言って目をそらした。
事務所では込み入った話は出来ないと思ってメモをそっと渡した。
『今晩、行くから』
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