シリーズ全UP済。果物のように甘いだけじゃない

数日後、俺は妹に電話をかけた。
『お兄ちゃんどうしたの?』
二歳年下の妹。
女心を相談できるのはコイツしかいない。そして、堂々と出掛けても問題ないのは妹だけだ。
「あのさ……買い物付き合ってほしいんだ。いつ空いてる?」
『日曜日、大丈夫だよ。何欲しいの?』
「あー……好きな人への指輪……的な物」
照れくさくて口ごもってしまう。妹に会ったらきっと色々聞かれるだろうな。根掘り葉掘り……。

日曜日、俺と妹は宝石店を何件か巡った。軽くサングラスをかけただけで、堂々と買い物をした。
「お兄ちゃん、健闘を祈る」
なんて言われて、妙に身が引き締まった。
月曜日の空き時間に事務所に寄って渡そうと思っている。そして、プロポーズをするつもりだ。

ところが、事務所に行くと芽衣子の姿は見えなかった。どこかに行ってしまったのだろうか。
美羽ちゃんに近づいて聞いてみる。
「あれ。芽衣子さんは?」
「風邪ひいてしまったようでお休みなんです……」
「そうなんだ」
一人で大丈夫だろうか。心配すぎて顔が引きつってしまう。そのまま何事もなかったかのように廊下へと歩く。
……仕事をキャンセルして今すぐにでも行きたい。
今日は二十時からの番組収録がある。
「黒柳さんっ」
追いかけて来たのは美羽ちゃん。
「あの、お節介かもしれませんが……芽衣子さんに会いに行ってあげてほしいです」
「あ、うん……。芽衣子、相当具合悪いの?」
「熱があるみたいで……」
「そっか。ありがとう」
美羽ちゃんはいい子だ。大樹には、本当に幸せになってもらいたい。
エレベーターが開いて俺は、美羽ちゃんに軽く手を振って中に入った。

芽衣子――。
夜に必ず行くから。
不安だろうけど待っていてくれよ。
俺は目を閉じて愛する芽衣子を思った。
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