シリーズ全UP済。果物のように甘いだけじゃない


芽衣子side

日曜日、暇を持て余した私は気分転換に外出をすることにした。
街を歩きながら、フラッと店に入る。甘い香りがする店内。アロマを扱っている店だった。
甘いけど、クドくない香り。
いいなーと思って商品を見ていると、サンプルをもらった。
「こちらの商品は桃の香りなんですよ」
にっこり微笑んだ店員さんが好印象だったのと、美羽さんが教えてくれた果物言葉を思い出してついつい買ってしまった。
――変わらぬ愛情。
明人は、そもそも私に愛情はあったのだろうか。
一度でも愛しいって思ってくれたことはある?

店を出てフラッと歩いていると宝石店が目に入った。そして、目を疑う。
明人が女性と肩を並べていたのだ。
若くて可愛い女の人とショーケースを覗いている。びっくりしすぎて体が震えてきた。
明人はもう新しい人と人生を歩き出しているのだ。私だけが明人に執着していたのだと知った。
恐ろしくなってその場から立ち去り、家まで急いで帰ったきた。
玄関に入るなり涙がポロポロ溢れ出す。悔しいけれど、私は明人を心から愛していたと改めて知った。
こんなところで泣いちゃダメだと思って中に入り、冷蔵庫に向かった。ビールを取り出して一気飲みする。
「忘れてやる……あんな奴」
飲んでいても明人とのことばかり頭に浮かんでしまう。スッキリさせたい。シャワーでも浴びよう。
頭から思い切りお湯を浴びる。泣いても、泣いても気が済まない。頭も痛くなってきた。
「……明人」
どうしてあんな人を好きになってしまったのだろう。悔やんでも仕方がないのに、後悔してしまうのだ。
バスルームから出て、濡れた髪の毛のままリビングでビールを飲む。アルコールでぼんやりして逃避することしか思いつかない。
「バカ……バカ……」
でも、一番馬鹿なのは、私だ。
冷静に考えれば明人が私なんかを好きにならない。世間でも知らない人が少ない、COLORのメンバーなのだ。
マッサージチェアーに座り目を閉じる。
私がここでくつろいでいる時に、明人は私をここで何度も抱いたよね。
明人に触られると全身熱くなって……震えてしまうほど、気持ち良かった。
はあ、いちいち思い出してしまう。
この家には思い出が多い。引っ越しでもしないと忘れられないかもしれないな。
会社も、もう……イケないかも。
そのまま眠ってしまった。
朝になり、寒気で目が覚めた。
マッサージチェアーの上で薄着のまま、濡れた髪の毛のまま寝ていたのだから、風邪を引いても仕方がない。
社会人としてありえない失態を犯してしまった。
体温計……どこだっけ。
立ち上がると天井がグラグラ動いて見える。お酒のせいもありそうだけど、熱もありそうだ。
ベッドのある部屋に置かれているタンスの一番上の引き出しに体温計があった。
脇に挟んでベッドに倒れる。
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