シリーズ全UP済。果物のように甘いだけじゃない

「だるいよ……」
一人だと心細くなる。
泣きそうだ。
いい歳して情けないな。
これからは一人で生きていかなきゃいけないのに。
ふっとリビングを見るとビールの缶が転がっているけれど、片付ける気にもならない。
ピピッ。
体温計が鳴って見てみると38.9度あった。これじゃあ、休むしかないか……。
会社に電話を入れる。
「あ、すみません。芽衣子です」
『美羽です。どうしました?』
「熱を出してしまって」
『大丈夫ですか? 無理しないで休んでください。何かやることあれば言ってください』
「ありがとう。急ぐものはないから……ごめんね。失礼します」
電話を切って、ベッドに横になった。まだ寒気が抜けなくてざわざわする。
休んだの……いつぶりだっけなぁ……。ぼんやりと考える。
そうだ、明人が熱を出した時だ。
あの時……朝、電話が来たんだっけ。
『会社休んで看病して』って。私は自分が熱を出したと嘘をついて、言われた通り会社を休んで明人の家に行ったんだ。会社を休んだのには罪悪感があったけれど、明人のことが心配でたまらなかった。
薬やスポーツドリンクなどを買い込んで急いで明人の家に行った。

家に行くと意外と元気だった明人。
熱はあったけど『芽衣子の作ったご飯が食べたい』と言われてうどんを煮た。
ぺろっと食べてしまった明人に薬を飲ませて、ベッドで寝てもらったのだけど、顔を真っ赤にして『芽衣子』って甘えてきて、手を握っていた。安心したような表情がたまらなく愛おしかった。
熱があるくせにキスしてってせがまれて、手を引いてキスをされた。
すぐに舌が絡みあうキスになり、不覚にも胸が疼いてしまった私。
それを悟ったかのようににっこりした明人。
そのままベッドに引きずり込まれたんだ。
明人の体はあっつくなっていて、抱きしめられた私は溶けてしまいそうになっていた。
スッキリした明人はすぐに熱が下がってさ。私がうつされたパターンだった。
次の日は熱冷ましを飲んで出社した。明人はさすがに反省したようで、平謝りだった。夜は珍しく明人がご飯を作ってくれて……美味しかったなぁ。そして、とても優しかった。
漫画のような本当の話。
考えてみれば、世間で人気があるアイドルと付き合うなんて、漫画のようなことだよね。
きっと……長い夢を見ていたんだ。
結婚してくれないって怒ってしまったけれど、贅沢になり過ぎたのだ。私なんかと長い間一緒にいてくれたことに感謝しなきゃ……。ありがとう、明人。
布団を被って震えながら涙を零した。
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