シリーズ全UP済。果物のように甘いだけじゃない
ずいぶんと楽になった――目をそっと開くと真っ白な世界が飛び込んできた。まさか本当にあのまま死んでしまった……とか。最後に明人に会いたかったな……。
ぎょっとなって、横を見ると点滴に繋がれていた。
ああ、病院? 良かった。生きてるみたい。
どうやってここまで来たのだろうか。考えるけれど頭が痛くてうまく思考回路が動かない。個室のようだけど……。
スライド式のドアが開いた。近づいてくる人の顔を見つめる。
「芽衣子っ、起きた!」
明人が浮腫んだ顔で笑って私を覗きこんでいる。んーやっぱり夢?
「調子どう?」
「…………」
「芽衣子、まだ具合悪いかな……?」
眉間に皺を寄せて悲しそうな顔をする明人。
夢じゃないよね。
昨晩、明人が家に来てくれたことを思い出した。
どうして家に訪ねてきたのだろう。
家に置いていった物を取りに来たのだろうか。この前片付けをしていた時にどうしようかと困っていた。でも、捨てるわけにも行かず……。
「大丈夫。まだ処分してないから、心配しないで」
「は?」
「落ち着いたら、明人の家に送ろうと思ってたから」
「何の話?」
噛み合わない話に明人は困惑している。
それよりも、こんな公の場にいるのは危険だ。一刻も早く帰さなければ……。
「バレないように、早く帰りなよ」
「…………芽衣子」
明人はそっと私の頬に触れた。
その手はすごく冷たくて気持ちが良い。
「まだ熱いね」
「うん……」
「二、三日入院だってさ。無理してたんだな……」
明人は帰ろうとしないで椅子に座った。
「入院?」
「辛かったら連絡くれれば良かったのに。それとも、そんなに俺のこと嫌いなのかな」
自嘲気味に笑った明人は、私に布団をかけ直してくれた。
「まずは眠って。早く治そう」
「…………」
「あのね、俺。大きな仕事が決まったんだ」
嬉しそうな顔で報告してくれる明人。
「なに?」
「◯◯スタジオの映画の声優さん。主人公なんだ。来年は忙しくなるなー」
「え! すごいじゃない。おめでとう」
お祝いしなきゃねと言いかけて口を噤む。そんな立場じゃないから。
「退院したら話したいことがあるから」
なんだろう。
新しい恋人のことだろうか。
「会社に連絡しなきゃ」
「俺がしておいた」
「え? そんなことしたら、勘違いされるじゃない。会社に復帰したら何て説明すればいいの?」