シリーズ全UP済。果物のように甘いだけじゃない


芽衣子は回復が早く次の日には、退院した。変な病気じゃなくて良かったと心から思う。芽衣子に何かあったら、生きていけない。
仕事を終えて芽衣子の家にウマそうなものを買い込んだ。急いで芽衣子のマンションに向かった。
チャイムを鳴らすと、すぐにオートロックを解除してくれた。
ドアをすり抜けてエレベーターに乗った。
明日は雑誌に載るはず。芽衣子も社長から連絡をもらっているだろう。俺からもちゃんと説明しなければいけない。エレベーターが開き降りて芽衣子の部屋に向かう。
変な緊張感が襲ってきた。
話の流れからプロポーズをすることになるだろう。指輪も持ってきたし。
部屋の前についてチャイムを押すとすぐにドアが開いた。
「入って」
「うん」
すぐに中に入れてくれたことに安堵するが、芽衣子は落ち着かない様子だった。リビングへ行くと芽衣子はキッチンでお茶を準備してくれる。
俺はお気に入りの定位置のソファーに座った。
「体調大丈夫?」
お茶を出してくれた芽衣子に問いかける。
「うん、大丈夫……。それより」と言いかけて、芽衣子は悲しそうな表情を見せた。
「社長から電話……もらった。明日は会社休みなさいって言われたの」
落胆の声で教えてくれる。雑誌に載ると会社も少し忙しくなるだろう。社長は気を使ってくれたに違いない。
芽衣子は俺から距離をとってカーペットに座った。
くしくも今日は、俺と芽衣子の付き合い出した記念日だったりする。芽衣子は覚えているだろうか。
「休んだらいいんじゃない? ゆっくりすれば?」
「どうしてそんなに呑気なの? 私のせいで明人が仕事を失うかもしれないんだよ」
今にも泣きそうな顔で訴えかけてくるが、俺は薄っすらと微笑んだ。
多少のイメージダウンは覚悟できている。
「あ、芽衣子。美味しいものいっぱい買ってきたから食べようよ」
「明人。今は大事な時でしょ? 大きな仕事も決まったのに……SNSで報告って……ファンは納得してくれるの?」
「うん」
「そもそも、私と明人はもう終わったでしょ?」
不安そうな声で探ってくる芽衣子。芽衣子は今でも俺のことが好きだろうか。
ソファーの背もたれに体重を預けて芽衣子を見つめる。
「芽衣子は俺のこと……好き?」
「……えっ」
隙を突かれたような表情をして、目をパチパチとさせている。何度もする瞬き。芽衣子の気持ちが知りたい。
「芽衣子、どうなの?」
芽衣子は目をそらす。
「ずるい。聞かないでよ。明人はもう新しい誰かと過ごしているでしょ。知ってるんだから」
「なにそれ」
何を言っているのか検討もつかない。
俺は夜な夜な芽衣子を思って一人でしてるというのに。
俺がどんな気持ちでいるか、知らないだろうに……。
芽衣子は俺を睨んでくる。
「見たんだから……。宝石店で女の人といたのを!」
「まじ?」
「うん」
なんということか。
見られていたなんて顔が熱くなってくる。
これから芽衣子に渡そうとしていた物を買ったんだ。誰に買ったものか、芽衣子は気がついていないようだ。
悲しそうな顔をするということは、俺のことが好きな証拠だよな?
「それ、妹」
「明人、妹なんていたの? 家族構成もわからないし……」
「俺と母と妹。父親は病気で小さい頃死んじゃって。金持ちになりたくて芸能界に入ったんだよね……。だから、売れ始めた時にメンバーの大樹がタイミング悪く子供を作ってしまって。大樹には申し訳ないけど、阻止したんだ。大樹には、悪かったと思ってる。だから、祝福したいって思ったんだ」
「そうだったの……」
芽衣子は困ったような表情をする。
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